グローバル展開時に直面する5つのコンプライアンス課題

多くの企業が、手遅れになってから気づく課題
かつてグローバル展開は、成功の総仕上げのようなものでした。 新しい市場に参入し、すぐに人材を採用し、製品を展開し、売上を伸ばしていく。
しかし、いまは状況が大きく変わっています。
国連貿易開発会議(UN Trade and Development)によると、2026年の世界成長率は約2.6%にとどまる見込みです。その背景では、次のような変化が起きています。
- 関税の上昇
- 保護主義の復活
- サプライチェーンの再編
- 規制の強化
世界は統合に向かうのではなく、分断が進み、政策の枠組みも分かれつつあります。
この環境では、コンプライアンスはもはやバックオフィス業務ではありません。最前線のリスク管理です。
海外展開を進める企業にとって、コンプライアンスは今、次のものを守る役割を担っています。
- 企業価値
- 事業の継続性
- 取締役会レベルの信頼性
- 取締役個人の法的責任
誤れば、ダメージは静かに積み重なります。
やがて規制当局が動き、監査が入り、取引が崩れます。場合によっては、取締役個人が名指しされることさえあります。
ここで、多くのグローバル成長ストーリーは「成功事例」から「警告事例」へと変わります。
本ブログでは、成長企業が不意を突かれやすい5つのコンプライアンス課題に向き合います。
課題1:国をまたぐ雇用区分の問題
多くのグローバル展開は、前向きな意図から始まります。
「まずは早く人を採用する」「市場を試してみる」「できるだけ柔軟に進める」。
海外雇用代行サービス(EOR:Employer of Record)や業務委託契約は、安全で一時的なものに思えます。しかし、多くの場合、それは一時的では終わりません。
雇用法は“意図”ではなく“実態”を見ます。
そして、チームが拡大すれば実態はすぐに変わります。
雇用区分リスクはどこから始まるのか
| 段階 | 企業側の認識 | 規制当局の見方 |
|---|---|---|
| 採用初期 | 「短期の業務委託です」 | 「実質的には従業員では?」 |
| 拡大期 | 「あとで正式化します」 | 「経済的に依存している状態」 |
| 定着期 | 「EORで守られている」 | 「恒常的な事業拠点」 |
どのように問題化するのか
| 地域例 | 主なリスク | 実務上の影響 |
|---|---|---|
| 世界各国 | 経済的従属性テスト | 業務委託が従業員と再分類される |
| EU複数国 | EOR利用の期間制限 | 監査リスクの上昇 |
| 高成長市場 | 従業員によるPE(恒久的施設)リスク | 税務上の拠点認定 |
本当のコスト
誤った区分は、単発の罰金では終わりません。責任が積み重なります。
| リスク領域 | 想定される影響 |
|---|---|
| 給与関連 | 遡及課税 |
| 社会保険 | 未払い負担金 |
| 福利厚生 | 遡及的な権利付与 |
| ガバナンス | 取締役責任 |
| 執行対応 | 数年にわたる監査 |
戦略的な現実
コンプライアンスの時計は常に進み続けています。特に、事業展開から18か月を超えるとリスクは急速に高まります。します。
監査担当者はパターンを見抜き、当局は記録の提出を求めます。当初「一時的」と考えられた対応も、やがて責任と罰金を伴う恒久的な義務へと変わります。
このような状況において、業務委託契約代行サービス(AOR:Agent of Record)は、業務委託の支払い管理や報告義務、国際対応を担いながら、適切な運用体制を整える有効な手段となります。
結論
働き方が従業員と同じであれば、規制当局も従業員として扱います。
リスクが積み上がる前に、適切な体制を整えることが不可欠です。
課題2:取締役・役員の法定責任
名義上の取締役(ノミニーディレクター)は効率的に見えます。
手続きを簡素化し、形式要件を満たし、現地要件を“解決”してくれるように思えるからです。
しかし、そうでなくなる瞬間が訪れます。
取締役という立場は、形式的なものではありません。個人的な責任を伴います。
取締役リスクはどのように積み上がるか
| 思い込み | 現実 |
|---|---|
| 「提出業務は彼らが対応する」 | 最終責任はあなたにある |
| 「コンプライアンスは任せている」 | 法的責任は残る |
| 「リスクは低い」 | 実際は高リスク |
主要国における取締役責任の重点ポイントイント
| 国 | 取締役責任の例 |
|---|---|
| 英国 | 最長15年の取締役資格停止 |
| ドイツ | 社会保険料に対する個人責任 |
| シンガポール | 書類不備に対する刑事罰 |
失敗すると何が起きるか
| リスク領域 | 影響 |
|---|---|
| 財務 | 個人資産への責任追及 |
| 法的 | 刑事記録 |
| 移動 | 渡航制限 |
| キャリア | 職業上の資格停止 |
| 評判 | 長期的な信用失墜 |
これらは例外的なケースではありません。日常的に起きています。
戦略的な現実
ノミニー制度では、リスクと権限が切り離されます。
責任はあなたに残る一方で、実務上のコントロールは限定的です。
このギャップこそが、規制当局の監視を招く要因となります。
結論
監督なき取締役就任は、利便性ではありません。
管理されていないリスクといえます。
課題3:データコンプライアンスと国際移転リスク
多くの企業は、「ポリシーがあれば守られている」と考えます。
しかし、そうではありません。
規制当局が見るのは形だけの方針ではなく、実際のシステムです。
なぜグローバルポリシーは機能しないのか
| 思い込み | 現実 |
|---|---|
| 「GDPRに準拠しているから問題ない」 | 各国のローカル法が優先される |
| 「セキュリティ対策は万全」 | データ移転は依然として規制対象 |
| 「IT部門が対応している」 | 法的枠組みが不十分なことが多い |
規制の分断
| 国例 | 主な要件 |
|---|---|
| EU → 米国 | 標準契約条項(SCC)の締結 |
| 中国 | 個人情報保護法(PIPL)による越境移転規制 |
| ブラジル | 一般データ保護法(LGPD)に基づく処理契約 |
失敗した場合の影響
| リスク領域 | 結果 |
|---|---|
| 規制対応 | 罰金・調査 |
| オペレーション | システム停止 |
| 戦略 | データの現地化を強制 |
| 評判 | 公開処分による信用低下 |
積み重なる影響
後からデータ保護体制を修正するには、次のような大規模対応が必要になります。
- ベンダーの入れ替え
- 契約の全面見直し
- 業務プロセスの再設計
- データ移行
一つひとつが、コストを倍増させます。
戦略的な現実
データコンプライアンスは、見せかけではなく、設計段階から組み込むべき基盤(アーキテクチャ)です。
結論
データの流れが脆弱であれば、事業そのものも脆弱になります。
早い段階でデータの主権と管理体制を確立することが不可欠です。
課題4:M&Aにおける人材の継続性
特に資産売却やジョイントベンチャー(JV)の場合、契約は迅速に進みます。
しかし、雇用法のルールはさらに速く、常に優先されます。
「解雇して再雇用」戦略が失敗する理由
規制上の障壁
| 国例 | 主な制約 |
|---|---|
| 英国・EU | TUPE(雇用契約の自動承継) |
| ドイツ | 労働協議会への事前相談義務 |
| フランス | 経済的解雇の制限 |
取引への影響
| リスク領域 | 影響 |
|---|---|
| タイミング | 数か月の遅延 |
| コスト | 従業員保持義務 |
| 法的 | 訴訟リスク |
| 価値 | 契約価値の減少 |
問題は、契約締結後に表面化します。
一度発生すると、修正はほとんど不可能です。
戦略的な現実
雇用に関するデューデリジェンスは、LOI(基本合意書)発行前に実施すべきです。
契約締結後では遅すぎます。
結論
雇用移管ルールを無視すると、案件は勢いを失います。
その影響は多くの場合、長期にわたります。つまり、契約は失敗するか、大きな損失を被ることになります。
課題5:恒久的施設(PE)リスク
EOR(Employer of Record)は、保護策として紹介されますが、税務当局は別の見方をします。
契約書ではなく、経済的実態を重視するのです。
PEリスクの発生要因
| 活動 | 税務上の解釈 |
|---|---|
| 現地での営業 | 事業拠点とみなされる |
| 意思決定権 | 経営活動とみなされる |
| リモートチーム | 恒久的施設(固定事業所)とみなされる |
| 長期雇用スタッフ | 従属代理人とみなされる |
よくある引き金
| 国例 | リスク要因 |
|---|---|
| ドイツ | Betriebsstätte(恒久的施設)規則 |
| 複数州 | 自宅勤務によるPE |
| 戦略的営業拠点 | 収益帰属の判断 |
適切なコンプライアンスがもたらす競争優位
多くの企業は、コンプライアンスを守りの手段と考えています。
盾のように、セーフティネットのように、あるいは単なるコストセンターのように。
しかし、それだけではありません。
適切に機能するコンプライアンスは、単なる守りではなく、成長のレバーになります。
- 摩擦を取り除く
- 信頼を築く
- 成長を加速させる
競合が問題の対応に追われている間、コンプライアントな企業は取引を着実に成立させ、混乱の中でも前進を続けます。
コンプライアンスの強さがもたらす効果
| ビジネス領域 | コンプライアンスが弱い場合 | コンプライアンスが強い場合 | 戦略的優位性 |
|---|---|---|---|
| M&A・投資 | デューデリジェンスが長期化 | 迅速かつ確実な審査 | 取引の早期成立 |
| 人材管理 | 高い離職率 | 安定した労働力 | 生産性向上 |
| 保険・リスク | D&O保険料の上昇 | コスト抑制 | 運営コスト削減 |
| オペレーション | 頻繁な混乱 | 安定した業務遂行 | 成長の予測可能性 |
コンプライアンスは理論上の優位ではなく、実際に先進的な国際企業が毎年、各市場で得ている成果です。
複利効果
時間が経つほど、これらの優位性は互いに強化されます。
| 年次 | 弱いコンプライアンスの道 | 強いコンプライアンスの道 |
|---|---|---|
| 1年目 | 小さなギャップ | 強固な基盤 |
| 2年目 | 摩擦増加 | 滑らかなスケーリング |
| 3年目 | 規制圧力 | 投資家の信頼 |
| 4年目 | 高コストな修正 | 市場でのリーダーシップ |
| 5年目 | 戦略的足かせ | 戦略的柔軟性 |
一方は成長を妨げ、もう一方は勢いを生みます。
適切なコンプライアンスは、単なる守りではなく、組織の前進を加速させる推進力なのです。
受動から戦略へ
多くの企業がコンプライアンスでつまずくのは、不注意が原因ではありません。
原因は、成長が組織の構造を追い越してしまうことにあります。
市場はシステムが成熟するよりも先に展開し、
チームは統制が整う前に拡大し、
収益はガバナンスが整う前に生まれます。
その結果、経営陣は場当たり的に対応せざるを得なくなるのです。
- プロセスをその場しのぎで補う
- 代替策を引き延ばす
- 難しい判断を先送りする
最初はこれらの「対処策」がうまく機能しているように見えます。
しかしやがて複雑さが積み重なり、遅延は負債に変わります。
解決策は、ソフトウェアを増やすことでも、ベンダーを増やすことでも、資料を増やすことでもありません。
必要なのはより優れた体制です。
これにより、成長を追いかけるのではなく、先読みして備えることが可能になります。
具体的には以下の要素です。
- 明確な法人・事業体の設計
- 現地規制に精通した専門知識
- 集中型の監督体制
- 単一責任者による明確な責任体制
- 現地での一貫した実行力
持続可能なグローバル成長の実現
スケーラブルなグローバル運営モデルは、近道や場当たり的な対応で築かれるものではありません。調整と統合によって築かれます。
- 国を越えた一貫性
- 機能横断の可視性
- 国ごとの責任明確化
これを実現するには、現地のパートナーが不可欠です。彼らは、申請や手続きが財務にどう影響するか、給与管理が税務リスクにどう影響するか、雇用法がガバナンスにどう影響するかを理解しています。
同時に、日々の地味な業務を厳格に管理できるチームも必要です。登録、報告、期限、更新といった一つひとつの業務が、安定した運営の基盤を支えます。
これらの基本をしっかり整えることで、複雑さは管理可能な範囲に収まり、規制要件は日常業務の一部となります。コンプライアンスは成長を妨げるのではなく、成長を支える力となります。
進むべき道:統合型アプローチ
グローバル展開は年々複雑化しています。規制は厳格化し、執行も強化されています。データは透明性を増し、当局間の連携も進んでおり、許容できる誤差の余地は縮小しています。
この環境下で、コンプライアンスを単なる事務作業として扱うことはできません。運営の中核インフラとして機能させる必要があります。
成功する企業はこれを早期に理解しています。
- 初日からガバナンスを組み込む
- 採用前に法人・事業体の構造を設計する
- 販売前に税務の枠組みを整備する
- グローバル展開前にデータ環境を整備する
- 買収前に報告プロセスを確立する
体制に先行投資することで、後の失敗に対するコストを避け、コンプライアンスの実行を簡素化できます。
複数の現地アドバイザーや給与プロバイダー、弁護士、コンサルタントを個別に管理するのではなく、信頼できる単一のグローバルビジネスソリューションパートナーと連携することで、全拠点を包括的にサポートできます。
- 1つのパートナー
- 1つの関係性
- 1つの責任モデル
その背後には、規制、雇用慣行、税務、報告基準に精通した現地専門家がおり、言語・時差・文化を熟知したチームが存在します。
この統合型アプローチは、業務の分断を減らし、可視性を高め、コントロールを強化します。経営陣は自信を持ってグローバルオペレーションを管理できるようになります。
ベンダー統合は単なる利便性ではありません。ガバナンスを確立するための手段であり、コンプライアンスを受動的な作業から管理された能力へと変えます。
本当に重要な違い
成長する企業は皆、複雑さに直面します。違いは、その複雑さを計画的に管理するか、危機に追われて処理するかです。
最も強い組織は、危機が訪れる前に体制を整え、リスクが積み重まる前にシステムを拡張します。コンプライアンスを単なる障壁ではなく、成長を加速させる力として活用するのです。
こうした規律により、企業価値は守られ、経営陣への信頼は高まり、成長は再現可能なものとなります。
グローバル経済では、一貫性が成功をもたらします。持続可能な成長こそ、トップ企業をその他大勢と分ける決定的な要素です。
スピードは重要ですが、勝利をもたらすのは体制です。
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