ヨーロッパの専門的なビジネスエコシステムと業界との最適なマッチング

世界的に外国直接投資(FDI)は過去最高水準に達しており、ヨーロッパはその成長をけん引しています。国際通貨基金(IMF)の最新のデータによると、世界でFDIの受け入れが多い上位10か国のうち半数以上がヨーロッパに位置しています。
この成長を支える原動力となっているのが、「業界特化型のエコシステム」です。単なる進出先にとどまらず、企業に競争優位性をもたらしています。フィンテックの拠点、Eコマースの要所、バイオテクノロジー製造の中心地、ゲーム産業のハブなど、ヨーロッパは世界のビジネスを惹きつけるだけでなく、企業の「どこで・どのように・なぜ成長するのか」に明確な方向性を示しています。
国際企業がヨーロッパでの事業拡大を検討する際、注目すべきは税制や人材だけではありません。自社のビジネスに最適な「自然なエコシステム」を見つけることが鍵となります。たとえば、オンラインゲームで知られる国に製薬研究所を構えるのは現実的ではありませんし、重工業向けに設計された都市でデジタルサービスチームを設立するのも得策とは言えません。業界に特化したインフラ、専門知識、制度環境がすでに整っている場所に進出することこそ、賢明な選択です。
本シリーズの第2回では、ヨーロッパ進出を成功に導くために、業界と最適なビジネス環境をどのようにマッチさせるかをご紹介します。デジタルサービスのスケールアップ、バイオテクノロジー分野の拡大、次世代ゲームプラットフォームの成長など、どのような事業展開においても、「適切なエコシステム」の選定が成功の鍵を握ります。
フィンテック業界の中核都市
注目すべき事実として、ヨーロッパのユニコーン企業のうち、実に35%がフィンテック関連です。ヨーロッパにおける最も高い企業価値を誇るスタートアップ上位5社のうち、Klarna、Checkout.com、Revolutの3社はフィンテックです。
革新的な規制サンドボックス制度、先進的なライセンス制度、そして資金調達のしやすさといった魅力により、フィンテック企業はヨーロッパ内の特定地域へと集まっています。
国名 | フィンテックの強み |
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イギリス | ロンドンは、深い資本市場と国際的なネットワークを備えた、欧州随一のフィンテックの中心地です。 ロンドンは、深い資本市場と国際的なネットワークを備えた、ヨーロッパ随一のフィンテックの中心地であり続けています。 |
アイルランド | Ulster Bank Dogpatch LabsのようなアクセラレーターやAonのようなアナリティクス拠点が集まっています。 |
オランダ | 850社以上のフィンテック企業が拠点を構え、EUで2番目に大きなフィンテック市場を有し、ベンチャーキャピタル調達額では第3位にランクインしています。 |
マルタ | ニッチなフィンテックライセンスとマルタ金融サービス庁(MFSA)によるフィンテック規制サンドボックスが、ブロックチェーン分野のイノベーションを支えています。 |
これらの国々では、顧客だけでなく協業パートナーにも出会えます。人材は規制に精通し、投資家はリスクプロファイルを理解しており、規制当局との建設的な対話も可能です。
テクノロジーとデジタルサービスは戦略的に拡大する
ヨーロッパは、ソフトウェア、SaaS、サイバーセキュリティ、AI、Eコマースといった分野で静かに存在感を高めており、拡大のためには最適なプラットフォームを選ぶことが求められます。
国 | テクノロジーエコシステムの特徴 |
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ドイツ | 産業用ソフトウェア、自動車テクノロジー(フォルクスワーゲン、SAP)、B2Bプラットフォームに強みを持ちます。 |
エストニア | e-Residency、デジタルガバナンス、スタートアップエコシステム、特にサイバーセキュリティとSaaSで知られています。 |
アイルランド | Apple、Google、Meta、Amazonといったグローバル企業のEU本社が所在。税制は知的財産とクラウド事業に有利に働きます。 |
ゲーム&エンターテインメント:ヨーロッパのプレイグラウンド
世界的に成長を続けるゲーム産業において、ヨーロッパの強みは制度面にあります。適切な規制とライセンス環境こそが、ビジネスの加速要因となっています。
国名 | ゲーム業界の推進要素 |
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イギリス | 市場規模は78.2億ドルの収益を持つヨーロッパ最大の市場。インディーからAAAまで幅広いスタジオが活躍しています。 |
マルタ | 2001年以来のライセンスリーダー。2001年からゲームライセンス制度を整備してきた、マルタゲーミング庁(MGA)の本拠地です。 |
キプロス | 有利な税制とデジタルインフラを背景に、急成長中のiGamingハブとなっています。 |
ゲーム開発・流通、またはiGaming事業を展開する企業にとって、これらの国々は、資本、ライセンス、人材といった必要なリソースが揃う理想的な拠点です。
製薬・ライフサイエンス:科学の力をスケールへ
ヨーロッパはライフサイエンス分野で長らく世界をリードしてきましたが、国によって得意分野やスケールには違いがあります。パートナー選定は慎重に行うべきです。
国名 | 主な製薬分野の強み |
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スイス | ヨーロッパ最大の製薬輸出国(2019年で9,754億スイスフラン)。バイオ医薬品や先端治療に特化しています。 |
ドイツ | 製薬産業規模は598億ユーロ。医療機器や臨床試験分野に強みを持っています。 |
イギリス | 研究開発の革新、製造拠点(アストラゼネカ、GSK)、バイオテクノロジーのハブです。 |
オランダ | Tevaの地域本部が所在。EU全域に対応する物流と中央拠点として最適です。 |
スタートアップ:迅速かつ柔軟な成長を支える都市
伝統産業に加えて、ヨーロッパはスピードと柔軟性を兼ね備えたスタートアップエコシステムの拠点でもあります。
国名 | スタートアップにおける優位性 |
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マルタ | スタートアップ分野におけるイノベーションでヨーロッパで4位にランクイン。規模は小さいですが支援体制が充実しています。 |
ドイツ | ベルリンは、強力なVCネットワークと豊富な人材に支えられて、世界のフィンテックのトップ10都市にランクされています。 |
エストニア | ヨーロッパ最速の会社設立手続き(最短15分)。公共サービスの99%がオンラインで利用できます。 |
ポルトガル | リスボンとポルトでテックスタートアップが急成長しています。コスト競争力もあります。 |
これらの都市は、成長を促進する仕組みが整備されており、知的財産の保護や優秀な人材の確保にも適しています。
国際的なホールディング構造:利益を最大化する基盤
知的財産の保護や利益の再投資を目的とした拠点選定において、国際的な法人構造に精通した国々が優れた選択肢となります。
国名 | ホールディング会社のメリット |
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マルタ | 全額税還付制度により、実質的に配当税0%です。 |
キプロス | 子会社からの配当・キャピタルゲインが非課税です。 |
オランダ | オランダのBVホールディングモデルは、利益の集中化とIP保護を可能にします。 |
これらの仕組みは、グローバル企業において資産保護や利益の本国送金、長期的な成長戦略の実現に活用されています。
業界別:欧州で最適なエコシステムを探す
国(主要都市) | 主な業界エコシステム | 特徴・強み |
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アイルランド(ダブリン、コーク) | テクノロジー、フィンテック、製薬 | 優秀な人材、大手製薬企業、ビジネスに有利な税制 |
オランダ(アムステルダム、ロッテルダム) | フィンテック、テクノロジー、ロジスティクス、eコマース | フィンテック資金調達でヨーロッパ上位、物流インフラも優秀 |
ドイツ(ベルリン、ミュンヘン、フランクフルト) | 自動車、製造、テック、製薬、ゲーム | 製造業の基盤、豊富なVC、スタートアップ支援体制 |
イギリス(ロンドン、マンチェスター、エジンバラ) | フィンテック、ゲーム、製薬、技術 | ヨーロッパ最大のフィンテック市場、多様なゲーム産業 |
マルタ(ヴァレッタ、セントジュリアンの) | ゲーム、フィンテック、スタートアップ | フィンテック規制特化、ゲームライセンス制度 |
キプロス(ニコシア、リマソール) | 金融サービス、海運、技術 | 税制優遇、海運業が強い |
エストニア(タリン、タルトゥ) | デジタルサービス、電子ガバナンス、フィンテック、スタートアップ | e-Residency先進国、迅速な法人設立手続き |
ポルトガル(リスボン、ポルト) | 観光、ハイテクスタートアップ、再生可能エネルギー | コスト効率が高く、成長中のテックエコシステム |
スイス(チューリッヒ、バーゼル、ジュネーブ) | 銀行、製薬、フィンテック、高精度製造 | 製薬生産の中心地、金融サービスの強さ |
最後に:成長スピードとスケールを実現する鍵は「特化」
ブドウ畑は雪の中では育ちません。ビジネスも同じです。業界と合わない市場で事業を展開すれば、時間もコストも無駄になりかねません。
業界に特化したエコシステムは、ビジネスにとって理想的な「気候」を提供します。規制の複雑さを解消し、必要な人材とのつながりを迅速に築くことができます。適切な場所での事業展開は、スピーディーかつ効率的な市場参入を可能にします。
そしてもう一つの成功要因は「現地の専門家」です。文化・制度・成功への道筋を熟知したパートナーは、単なる助言にとどまらず、実際に行動を起こして成果を上げてくれる存在です。最適なエコシステム選びと信頼できる現地パートナーの支援により、機会を瞬時に勢いへと変えることができます。
次回のシリーズ最終回では、これらをどのように実行に移すか、ステップバイステップで解説します。
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