法人管理のすべて:スイス

スイスは国土こそ小さいものの、その国際ビジネスにおける影響力は非常に大きな存在です。最近では、経済自由度指数において世界第2位にランクインしており、開かれた市場、強固な法の支配、健全な金融政策が高く評価されています。さらに、グローバル・イノベーション・インデックスでは14年連続で世界1位を獲得し、研究開発やテクノロジー分野における圧倒的なリーダーシップを示しています。
スイスは政治的に安定した政府と透明性の高い法制度、そしてヨーロッパの中心に位置する地理的優位性を兼ね備えており、国境を越えたビジネス展開における戦略的拠点として非常に魅力的です。850社を超える国際企業が、スイスに本社または主要機能拠点を設立しており、これは汚職の少なさと自由貿易を推進する姿勢によるものです。
一方で、スイスはヨーロッパで最も規制が厳しい国の一つでもあります。2024年版のグローバル金融規制・透明性・コンプライアンス指数によれば、スイスのビジネス環境は厳格かつ高度に体系化された規制構造を特徴としています。こうした環境は高い安全性と信頼性を提供する一方で、高水準の運用精度とコンプライアンス意識が求められます。
本ブログでは、スイスで法人を設立・運営するにあたって必要なステップを解説します。法人形態の選定から設立手続き、そして高度な規制環境における設立後のコンプライアンス対応まで、成功に導くための重要なポイントを詳しくご紹介します。
スイスの法人形態:貴社に最適なものを選ぶ
スイスで法人を設立する際、多くの国際企業が選択するのは AG(株式会社:Aktiengesellschaft) または GmbH(有限責任会社:Gesellschaft mit beschränkter Haftung) のいずれかです。それぞれの法人形態には、事業規模や目的に応じた特徴があります。
法人形態 | 説明 | 資本金要件 | 責任範囲 |
---|---|---|---|
AG(株式会社) | 大規模事業や投資家向けの上場を視野に入れた企業向け | 100,000スイスフラン(うち50%払い込み) | 有限責任 |
GmbH(有限責任会社) | 中小企業や現地法人に最適 | 20,000スイスフラン(全額払い込み) | 有限責任 |
個人事業主(Sole Proprietorship) | 個人で事業を行う場合 | 資本金要件なし | 無限責任 |
支店・支社(Branch/Rep Office) | 外国企業の登記済み営業所 | ケースにより異なる | 親会社が責任を負う |
駐在員事務所(Representative Office) | 商業登記されず、商取引も不可 | ケースにより異なる | 親会社が責任を負う |
AG(株式会社)およびGmbH(有限責任会社)は、いずれも外国資本による所有が可能であり、スイス国外の企業や個人が株主として参入することに制限はありません。しかし、それは障壁がゼロというわけではありません。
たとえば、スイスではローカルコントロールの確保が法律で義務付けられており、AG・GmbHともに、単独署名権限を持つ取締役または法定代理人のうち、最低1名はスイス居住者でなければなりません。
これは任意ではなく、厳格な法的要件です。設立手続きにおける「規制上の要(アンカー)」とも言えるこの条件を満たさない限り、法人登記は完了せず、コンプライアンス違反によって設立プロジェクト全体が失敗する可能性もあります。
スイスでの法人設立プロセス:精度がすべてを左右する
スイスにおける法人設立は、一歩一歩が非常に厳密に管理された「官僚的マラソン」とも言えるプロセスです。どこか一つでも手続きを誤ると、最初からやり直しになる可能性があります。大まかな流れは以下のとおりです。
- 会社名の予約(有効期間:2か月)
- 定款(Articles of Association)の作成(ドイツ語、フランス語、またはイタリア語で作成)
- スイスの銀行に株式資本を預ける
- スイスの公証人の前で文書を公証する
- 商業登記所への登記申請(所要期間:約1~2週間)
書類に関しては、以下のものを提出する必要があります。
- 創設者の有効なパスポート/身分証明書
- 住所証明
- 資本金の銀行入金確認
- 定款
- 取締役就任承諾書
- 実質的支配者(UBO)に関する申告書
設立にかかるコストは、法人形態や事業内容の複雑さによって大きく異なります。また、設立先となるカントン(州)ごとに費用や手続きも異なるため、場所選びも慎重に行う必要があります。
すべての書類が正しく準備されている場合、標準的な法人設立プロセスは通常2〜4週間で完了します。しかし、外国企業がスイスに進出する場合は、より長い準備期間が必要になるケースが一般的です。
その理由としては、以下のような追加対応が求められるためです。
- 現地法に基づくデューデリジェンス(適正手続)
- 専門的なサポート(法務・税務・会計)
- 書類の翻訳や公証対応
これらは手間がかかる一方で、すべて重要かつ不可欠なプロセスです。
スイスでの外国人設立者:求められるのは「もう一段上の準備」
スイスでは、外国人個人および外国法人による法人設立は問題なく可能です。実際、多くの国際企業がスイスに拠点を構えています。
しかし、国内設立者と比べて提出書類や審査のハードルが高くなる傾向があるため、より丁寧で計画的な準備が求められます。
- 有効なパスポート
- 現住所の証明書
- 証明書類の翻訳およびアポスティーユ(公証認証)
- 犯罪歴証明書(必ずしも法的に義務付けられているわけではありませんが、特に高リスクセクターや特定の国籍の場合、州当局や銀行からKYC中に要求されることが多いです)
外国企業は以下を提供する必要があります。
- 定款および社内規程
- 登記簿謄本
- 取締役会決議
- 実質的支配者(UBO)に関する申告書
不動産、銀行、保険、防衛などの規制対象分野では、さらに厳しい審査とライセンス取得が必要となります。
最新の法改正:コーポレートガバナンスの水準向上
スイスで改正された企業法(会社法)は、2023年1月1日より正式に施行されました。
ただし、すべての企業には2024年12月31日までの猶予期間が設けられており、それまでに定款(Articles of Association)を新法に準拠させて改訂することが求められていました。
この猶予期間はすでに終了しており、いまだに旧法に基づいた定款を使用している場合は、既にコンプライアンス違反の状態にある可能性があります。
国際企業が知っておくべきことは次のとおりです。
- キャピタルバンド制度:取締役会が、株主総会の都度承認を得ることなく、授権された範囲内(最大±50%)で資本金を増減可能になりました。柔軟な資本戦略の構築が可能となります。
- バーチャル会議の合法化:株主総会や取締役会の完全なオンライン開催が合法になりました。ただし、定款にその旨が明記されている必要があります。
- 外貨:株式資本を米ドル、ユーロ、ポンド、または日本円で建てることができるようになり、財務の柔軟性が拡大しました。
- 電子決議の承認:取締役会や総会ではデジタルで決議を可決できるようになり、ガバナンスが効率化されます。
もし、貴社の定款が2023年の法改正前の内容のままであれば、今すぐ見直しと改訂を行うべきです。スイスのような規制が厳格で透明性の高い法環境においては、時代遅れの定款が大きなリスクとなり得ます。今こそ、社内体制の法令適合性を再点検する絶好のタイミングです。
継続する改革:スイス企業法制の進化は「進行形」
スイスのコーポレート環境は、決して固定的なものではありません。法制度は現在も進化を続けており、企業の運営・管理体制に直接的な影響を与え始めています。
すでに施行済みの主な法改正は次のとおりです。
- スイス連邦データ保護法(2023年9月1日):データセキュリティ対策の強化に加え、個人情報漏洩の報告義務が厳格化しました。
- 社内法務の秘匿特権(2025年1月1日):社内の法務担当者にも、弁護士と同等の守秘義務・法的保護(リーガル・プライバシー)が認められるようになります。
今後予定されている法制度の改正は次のとおりです。
こうした法改正は、スイスが「変化に対して敏感で、制度的に機能する国家」であることを改めて示しています。つまり、法人登記後の「静的な運営」では不十分。コンプライアンスも常にアップデートされるべき動的なプロセスです。
最後に:スイスで成果を出す鍵は「精度」そのもの
スイスは、単なるヨーロッパの中心地ではありません。高度に発展したイノベーション主導型経済であり、世界水準のインフラ、透明性の高い制度、国際企業を歓迎するビジネス環境を備えています。この国への投資は、安全であるだけでなく、極めて戦略的です。
スイスでのチャンスには常に「精密さ」が伴います。ルールは明確でありながら厳格で、実行は正確かつ規則通りでなければなりません。法人設立から給与処理に至るまで、コンプライアンスは単なるチェックリストではなく、企業文化そのものなのです。
スイスでは画一的なソリューションは通用しません。現地の言語で、現地のニーズに合ったツールを使った給与計算や、スイス独自の慣習に合わせた福利厚生のカスタマイズなど、成功の鍵は細やかで現地に即した対応にあります。一方で、多国籍企業にとっては、複数の法域で事業を展開する際に、国境を越えた一貫性のある視点を維持することも同様に重要です。
鍵となるのは、グローバルな視点を持ちながらも現地に密着したパートナーを見つけることです。スイスの規制環境を隅々まで理解し、それを貴社の全体戦略や日々の業務としっかり結びつけられる存在が求められます。
スイスは細部にまで気を配る人に報います。ですから、十分に情報を持って臨み、しっかり準備を整え、何よりも最初から正しい形でスタートすることを強くお勧めします。
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