HR 101 ウェビナー:APAC地域で人材を採用し、支援するために本当に必要なこと

グローバルに展開するHR 101ウェビナーシリーズの一環として、GoGlobalのリーダーたちは業界の仲間と協力し、主要地域における人材採用とマネジメントの現実を率直に共有しています。これにより、国際企業が賢く判断し、予期せぬコストを避け、海外雇用の現実を自信を持って乗り越えられるよう支援することを目的としています。
直近のアジア太平洋(APAC)編では、GoGlobalのアソシエイトディレクターであるマルコス・サルガドがパネルに参加し、この広大で多様な地域の業務上の複雑さを解説しました。以下は、マルコスによる質疑応答のハイライトをまとめたもので、APACで成功するための実践的なアドバイスをお届けします。
国際企業はAPAC地域全体をどのように捉えるべきでしょうか?
答えは「捉えないこと」です。APACに「これ一本でいける」戦略は存在しません。法制度、文化、業務慣行が大きく異なる約50カ国を抱えるこの地域では、国ごとに個別対応するしかありません。
マルコスは市場を複雑さで分類することを推奨しています。
規制環境 | 国名 | 特徴・期待されること |
---|---|---|
高度に統制され、ローカライズ必須 | 日本、韓国 | 厳しい労働者保護、終身雇用の文化的期待 |
中国、インド | 多層的な法体系(国・州・市レベル) | |
ハイブリッドまたは発展途上 | ベトナム、インドネシア、台湾、タイ、フィリピン | 法制度が変化中で執行の差異や解釈のばらつきがあり、頻繁に政策が変わる |
ビジネスに優しい環境、整備済み | シンガポール、香港、マレーシア | 明確かつ透明な法制度、簡素化された手続き、公用語は英語 |
結論:APACでは地域一括の戦略は失敗します。国ごとに細かく分解し、それぞれの実情に応じて期待値を調整しましょう
APACでの雇用が、米国など他の市場と根本的に異なるのはなぜでしょうか?
すべてが異なります。米国企業は「随意雇用(アットウィル)」や迅速な入社手続き、手続きの簡素さに慣れていますが、APACではルールが逆転し、次のような現実に直面します。
- 随意雇用はどこにも存在しない
- 政府への届出が義務付けられている
- 雇用契約には公的な印紙税が必要な場合が多い
- 社員ハンドブックの作成が必須(一般的に従業員数10名以上で求められる)
- 日本や韓国などでは「終身雇用」といった文化的概念が根付いている
まとめ:APACでは初日からコンプライアンスが非常に厳しく、「飛びながら飛行機を組み立てる」ような対応は通用しません。
APACでの従業員解雇はどれほど複雑なのでしょうか?
米国に比べて全般的に複雑で、厳しく規制されていることが多いです。以下はインドネシアにおける解雇の例です。
- 正当な理由を証明する必要がある。
- 解雇に至るには、2回の書面による警告と、文書化された業績改善計画(Performance Improvement Plan)が必須。
- 解雇時には、文書化された双方の合意による協議が必要で、その合意内容は産業関係裁判所に提出される。
- 合意に至らない場合は労働省が調停者を任命し、未解決の場合は労働裁判所から最高裁判所へと訴訟が進む。
アドバイス:APACのどの国でも、解雇が迅速にできるとは限りません。必ず現地の専門家に相談し、「イベント」ではなく「プロセス」として計画しましょう。
APAC地域の給与支払いで特にユニークな点は何でしょうか?
各国に独自のルールがあり、「そのまま使える」仕組みは存在しません。APACの給与管理は、各国ごとの給与支払頻度、法定福利、源泉徴収のルールに基づいています。以下は、いくつかのAPAC市場における給与管理の特徴例です。
国名 | 給与管理の特徴 |
---|---|
インドネシア | 宗教手当の義務付け(13か月目の給与支給) |
日本 | 複雑な年末調整や社会保険の年次報告 |
フィリピン | 月2回の給与支払いサイクル、3つの政府機関への拠出金 |
ベトナム | テト(旧正月)ボーナスの文化的慣習 |
タイ | 企業負担の確定拠出年金制度(Provident Fund)への拠出義務 |
中国・インド | 省・市・州レベルの規制が給与計算に大きく影響 |
福利厚生についてはどうでしょうか?APACで求められる内容はどのように異なるのでしょうか?
法定の社会保険だけでは不十分であり、国ごとに必要とされる内容が大きく異なります。以下はその概要です。
地域/国 | 求められる内容 |
---|---|
中国、日本、韓国 | 公的な社会保障制度が充実しているものの、企業負担による補完的な制度も求められる |
インド、フィリピン、インドネシア | 企業提供の福利厚生が主要な医療保障となることが多い |
国際企業が驚くことが多い、特に注意すべき期待は以下の通りです。
国名 | 想定外の求められる事項 |
---|---|
インド | 従業員の両親をカバーする健康保険が必要とされることが多い |
日本 | 退職金制度の導入には6か月間の政府承認プロセスが必要 |
シンガポール、タイ、香港 | 確定拠出年金(Provident Fund)への拠出が義務化されており、対象範囲も拡大中 |
ポイント:福利厚生は単なるコストではありません。多くのAPAC諸国において、採用や離職防止、さらには事業運営全般において極めて重要な役割を果たしています。
ビザや人材移動のトレンドは採用戦略にどのような影響を与えているのでしょうか?
APACでのグローバル採用は、単に求人を出して海外から人材を呼び寄せるだけでは済みません。地域各国の政府は、現地雇用を優先する形でビザや労働力移動の政策を積極的に見直しています。
この地域に進出する企業は、単なる法令遵守にとどまらず、戦略的に人員計画を立てる必要があります。
主なポイントは以下の通りです。
政策トレンド | 意味 | 対象地域・国 |
---|---|---|
労働市場テスト | 外国人を雇用する前に現地人材がいないことを証明する必要がある | シンガポール、マレーシア — 他市場にも拡大中 |
割当制度(クオータ制) | 雇用承認にあたり、現地人と外国人の厳格な比率が求められる | タイ:外国人1人に対して現地人4人(APAC全般で一般的) |
ビザ発給の遅延 | 書類提出の増加や承認期間の長期化 | 地域全体 |
アドバイス:外国人を採用する前に必ず現地採用を計画しましょう。ビザ取得の可否は、この現地雇用の基準を満たせるかどうかに大きく左右されます。
企業がAPAC進出時に犯しやすい文化的なミスとは?
最も多い誤りの一つは、階層構造やコミュニケーションの慣習を軽視することです。例えば日本では、常に最上位の人物に従うべきです。指示を出す前に、まず上司の了承を得なければなりません。
慣習は国や地域によって異なりますが、APAC全体で押さえておくと良いポイントは以下の通りです。
- 頷くことは「同意」ではないことが多く、「聞いています」という意味の場合がある
- 慣用句や皮肉は、非ネイティブには誤解を招きやすいため避ける
- 会話やビジネスを急がず、人間関係の構築に時間をかける
おすすめ:双方の文化を理解した現地の人事リーダーやコンサルタントを採用しましょう。文化的なニュアンスを尊重することは、APACに限らずどこでも必須です。
初めてのAPAC進出における最適な戦略は?
小規模から始め、自社の規模に合わせた戦略を立てることが重要です。以下は最初の一手を考えるためのシンプルなフレームワークです。
チーム規模 | 推奨されるアプローチ | 理由 |
---|---|---|
1〜2名 | 契約社員契約(法的に許可されていれば) | コストとリスクが低く、迅速に開始可能 |
3〜5名 | 非居住者向け給与支払い、または海外雇用代行サービス(EOR) | 法人設立なしで一定の体制を構築できる |
5名以上 | 法人設立(長期的なコミットメントを伴う) | 完全な管理権限が得られるが、法務・コンプライアンス・税務の責任が発生 |
また、市場参入は自社のリスク許容度や成長計画に合わせることも非常に重要です。
市場タイプ | 対象国 | 重要な理由 |
---|---|---|
進出に適した市場 | シンガポール、香港、マレーシア | ビジネス環境が整い、英語話者が多く、法制度が明確 |
注意が必要な市場 | 日本、韓国、中国、インド | 法制度が複雑で労働法が厳しく、設立に時間がかかり、文化的配慮が必要 |
APACにおける最適な人材戦略とは?
国際企業は、採用にあたって各国の強みを最大限に活かすべきです。
- テック人材:インド、ベトナム、インドネシア
- オペレーション・管理部門:フィリピン、マレーシア
- リーダーシップ・戦略:シンガポール、香港、オーストラリア
人材の最適化は、地域全体の一般論ではなく、国別に計画することが重要です。
APACに初めて関わる人事リーダーが優先すべきことは?
基本を押さえつつも深く掘り下げることが大切です。以下を検討してください。
- 現地の知識と人脈を構築する
- 国別の法務専門家に投資する
- ビザ手続きや労働力比率に精通する
- 各国の実情に合わせて雇用契約書類をカスタマイズする
最後に、マルコスはAPACの複雑さを尊重し、現地の専門家と連携し、母国の考え方をそのまま当てはめる誤りを避けることを強調しています。APACで成功するには即興ではなく、入念な準備が不可欠です。
今後も本シリーズをお楽しみに
本ブログはGoGlobalによる継続中の「HR 101」ウェビナーシリーズの一部であり、世界各地の採用に関するリーダーたちの実体験に基づく知見を共有しています。今後はヨーロッパ、中東・アフリカ(EMEA)、アメリカ大陸をテーマにした回も配信予定ですので、ご期待ください。
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