採用から契約終了まで任せられるEORを見つけるには?

世界経済フォーラムの「未来の仕事レポート」によると、2025年から2030年の間において、雇用主の63%がスキルギャップをビジネス変革の最大の障壁と見なしています。
このプレッシャーを緩和するために、各社は国際的な人材プールへのアクセスを急いでいます。そこで登場するのが「海外雇用代行(EOR:Employer of Record)」モデルです。スムーズかつスピーディーに海外人材を採用できるとされています。しかし、ある経験豊富な最高人事責任者はこう語ってくれました。「少し出来すぎているように思える」と。
EOR市場は派手なマーケティングで急成長しています。プロバイダーは「すべてをお任せください」と言わんばかりに、「どこでも雇えます」とうたっています。私たちがすべて対応します、と。
しかし、現実はそう簡単ではありません。国際的な雇用は複雑で、混乱しやすく、すぐに導入できるようなシンプルな仕組みではないのです。
このブログでは、EOR(Employer of Record)プロバイダーをどのように見極めるべきか、そして注意すべきポイントをご紹介します。
ビジネスや大切な人材、そして今後のグローバルな成長を守るために、失敗しない選択をするためのヒントをお伝えします。
EORマーケティングの裏側にある現実
残念ながら、多くのEORはお客様のニーズよりも、自分たちのビジネスモデルを守ることを優先しています。
- 投資家の保護を最優先
人員削減が必要な場面でも、EOR側が対応に消極的になることがあります。それは削減が不当だからではなく、法的なリスクがEORのビジネスモデルを脅かす可能性があるためです。このような状況では、クライアントであるあなたの優先事項よりも、EORの投資家を守ることが優先されてしまうのです。
- 法的な正当性に関するギャップ
ポルトガルをはじめとする複数の国で、EOR契約の法的な有効性が疑問視されています。なぜなら、EORは雇用主であるあなたの企業と同じ法的主張を行うことができないからです。万が一、人事上の決定が争われた場合、EORは法的な対応に限界がある可能性があります。
- 「人」よりも「プラットフォーム」を優先
多くのEORは、今やテクノロジー重視で、コンプライアンスは後回し。アドバイザリーサービスはおまけ程度です。しかし、国際的な雇用は単なるソフトウェアの問題ではありません。現地の専門知識、システムとの統合、継続的な助言、そして実務的なサポートが不可欠です。
EORサービスを選ぶための評価基準
評価項目 | 重要な質問例 | チェックすべきポイント | 注意すべきサイン(レッドフラッグ) |
---|---|---|---|
現地での専門知識 | ・現地拠点はありますか? ・複雑なケースの対応事例を教えてください ・現地の法律にはどのように対応していますか? | ・対象国に現地スタッフがいる ・現地の労働法に詳しい専門家がいる ・法改正への積極的な対応がある | ・複数の国で同じような回答をする ・「世界中にパートナーがいる」といった曖昧な主張 |
事業の持続性(レジリエンス) | ・人員削減時の対応は? ・過去に法的トラブルはありましたか? ・対応を断るケースはありますか? | ・国ごとの明確な対応方針がある ・法的課題への透明性がある ・対応できないケースを正直に説明 | ・契約終了や法的リスクの話を避ける ・制限事項の説明を拒む |
サービスの基本方針 | ・コンサルティングと事務処理のバランスは? ・継続的なサポートの内容は? ・イレギュラーなケースの対応は? | ・コンサルティング重視の姿勢 ・積極的な人事アドバイス ・経験に基づく柔軟な問題解決 | ・システム機能ばかりを強調 ・例外対応に対して「できない」と言い切る |
テクノロジーと統合性 | ・HRISや給与システムとの連携は? ・どの程度のレポート ・可視化が可能ですか? | ・堅牢なAPIとデータセキュリティ ・データの可視化・管理が可能 ・データの持ち出しが容易 | ・人間の判断を置き換えるテック重視 ・他システムとの連携性が低い |
実績と信頼性 | ・同業種のクライアントと話せますか? ・複雑な問題をどう解決しましたか? | ・緊急時の対応力が確認できる紹介先 ・コンプライアンス問題への実績ある対応 | ・顧客紹介を拒否または非常に限定的 ・緊急対応の経験が乏しい |
この時点で検討をやめるべき注意サイン
見逃してはいけない警告サインがあります。以下のような発言や対応が見られた場合は、そのプロバイダーとの継続的な検討を見直すべき明確なサインです。
■ 即時に検討対象外となるケース(Immediate Disqualifiers)
これらはいわゆる「決定的なNG」です。国際雇用の複雑さに対応できないことを示しています。
🚩 レッドフラッグの例 | ❗ なぜ問題なのか |
---|---|
「どの国でも同じやり方で対応しています」 | 各国で雇用法は異なります。画一的な対応では法的リスクが高まります。 |
「当社のプラットフォームでコンプライアンスは自動化されています」 | コンプライアンスには専門的な判断と現地の知識が不可欠。システムだけでは不十分です。 |
「これまでクライアントからの依頼で対応できなかったことは一度もありません」 | 限界のないサービスは存在しません。複雑な状況について話したがらないのは将来のトラブルの兆候です。 |
「法律のことは気にしなくて大丈夫です」 | 法的なリスクや義務を理解することは不可欠です。信頼できるプロバイダーは丁寧に説明してくれます。 |
■ 注意が必要な発言・対応(Red Flags)
🚩 レッドフラッグの例 | ❗ なぜ問題なのか |
---|---|
現地拠点についての説明が曖昧(例:「どこにでもパートナーがいます」など) | 本当に現地の専門知識を持っていない可能性があります。 |
国ごとの具体的な対応事例を出せない | 現地の法制度についての理解が浅いことを示しています。 |
詳細な確認をしないまま契約を急かしてくる | 慎重で戦略的な意思決定と合っていない姿勢です。 |
コンプライアンス(法令順守)への懸念を軽視する態度 | 将来的に法令違反が発生するリスクがあります。 |
最初の段階で価格ばかりを強調し、サービス品質には触れない | 運用面の質やサポート体制よりもコストを重視している恐れがあります。 |
価格や機能だけではない、“戦略的パートナー”であることが重要
EORを選ぶことは、単にチェックリストを埋めたり、最安のサービスを探したりする作業ではありません。複雑でリスクの高い国際雇用の現実にしっかり対応できる、信頼できるパートナーを見つけることが大切です。適切なプロバイダーは、単なる契約上のベンダーではなく、あなたのビジネス戦略の一部となる存在です。
■ 「パートナーとして信頼できるか?」を見極める4つの視点(The Partnership Test)
観点 | 見るべきポイント | 質問例 |
---|---|---|
コンサルティブな姿勢 | 画一的な提案ではなく、自社の課題を深く理解してくれるか | あなたの事業戦略や人材ニーズについて、具体的で深い質問をしてくれますか? |
プロアクティブな対応 | 問題が大きくなる前に、先回りしてアドバイスしてくれるか | トラブルが起こる前に、注意点や対応策を教えてくれますか? |
文化的な相性 | 従業員への配慮や価値観を共有できるか | 従業員をどのように扱いたいか、その考え方と合っていますか? |
成長を支える柔軟性 | 事業の拡大や法人設立への移行もサポートできるか | EORから現地法人設立へのステップにも対応できますか? |
危機的状況を想定したEORの見極め方(The “Crisis Scenario” Evaluation)
EOR(Employer of Record)を選ぶ際には、順調なときだけでなく、トラブルや危機に直面したときにどう対応してくれるかを見極めることも非常に重要です。
以下のようなシナリオを想定して質問することで、プロバイダーの本当の実力と姿勢を見抜くことができます。
想定シナリオ | 見るべきポイント | 質問例 |
---|---|---|
人員削減 | デリケートな雇用調整に関する明確かつ実践的な対応手順があるか | 「6か月後に人員削減が必要になった場合、このプロバイダーは専門的かつスムーズに対応してくれるでしょうか?」 |
法的トラブル | 法的な精査への対応力・透明性・自信があるか | 「現地当局から雇用スキームについて問い合わせがあった場合、このプロバイダーは自社の法的枠組みをしっかりと説明し、サポートしてくれるでしょうか?」 |
複雑な従業員対応 | 専門的な支援を迅速かつ柔軟に提供できる体制があるか | 「現地時間の深夜2時に従業員とのトラブルが発生した場合でも、専門家のサポートを受けられる体制はありますか?」 |
結論:EORの選定は、戦略そのもの
EOR(Employer of Record)の選定は、単なる契約や作業の外注ではありません。
それは、国際展開を成功させるか、失敗に終わらせるかを左右する、極めて重要な戦略的判断です。
本当に信頼できるEORは、単に従業員を雇用するだけではありません。
あなたのビジネスを支える「パートナー」として、ガイド役・問題解決役を果たします。
優れたEORが果たす5つの役割:
- 現地の雇用法に精通した専門家として、文化面の理解もサポート
- リスクや制約を明確に伝え、信頼できる判断材料を提供
- 困難な状況でも、正当なビジネス判断を支える姿勢
- EORから自社法人への移行など、将来の事業拡大にも備えた提案
- 従業員の体験価値を重視し、高い基準を維持
契約前にやっておくべきこと:
- 国際雇用における自社の戦略を明確にする
→ EORはその戦略に合致している必要があります。 - ターゲット国の法制度を理解する
→ プロバイダー任せにせず、自社でも基本を把握しておくべきです。 - 拡大・縮小・法人設立移行など、さまざまなシナリオを想定する
- 「とにかく雇えればOK」ではなく、成功の指標を定義する
- 自社の業界や事業特性に合った評価基準を持つ
結局のところ、EORは単なる「業者」ではありません。目立たないけれど重要な業務にしっかり向き合い、貴社のビジネスを守る“真のパートナー”です。万が一トラブルが発生したときには的確に対応し、グローバル展開を自信を持って導いてくれます。
だからこそ、慎重に選ぶべきなのです。
貴社の国際戦略は、EOR選びにかかっていると言っても過言ではありません。
GoGlobalの実績あるEORサービスが、グローバルな採用・事業拡大をサポートいたします。
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