資産カーブアウトに伴う従業員の移行を整理する3つの方法

契約の締結はスタートにすぎません。重要な課題は、従業員が取引対象の資産に関わるときに始まります。
2024年初頭から2025年にかけて、グローバルM&Aの取引額は15%増加しましたが、取引件数は9%減少しました。取引件数は減ったものの、1件あたりの重要性は増しています。特に、カーブアウトの対象となる従業員にとっては、移籍を確実に実行することが、これまで以上に重要です。
資産のカーブアウトを伴う取引では、従業員の移籍が自動で行われるわけではありません。従業員は移管されるか、新たな法的構造のもとで再雇用される必要があります。この手続きを遅らせると、重要な人材を失ったり、現地の労働法に違反したり、初日から業務に支障をきたすリスクがあります。
ポイントは、2つの関連要素にあります。
- 移籍の仕組み:従業員が売り手から買い手へどのように移籍するか
- 雇用形態:従業員がどこに所属するか(EOR、NRP、または法人)
それぞれの方法には、それぞれ固有の法的ルール、スケジュール、リスクがあります。
法定移管:法律に基づく従業員の移籍
イギリスおよび多くのヨーロッパ諸国では、事業譲渡における従業員保護規則(TUPE) が、ビジネスの移転に伴う従業員を保護しています。
ヨーロッパ各国にも同様の法律があり、それぞれに現地特有のルールがあります。
これらの枠組みが適用される場合、従業員は売り手から買い手へ自動的に移動し、雇用条件は変更されません。
法定移管が適用される典型的なケース
- 資産購入に継続的な事業活動が含まれる場合
- サービス提供形態の変更(アウトソーシングやインソーシング)がある場合
- 従業員が移管対象の資産に割り当てられている場合
IP、設備、または非運営資産のみを購入する場合、TUPEは適用されません。その場合、関わる従業員の雇用方法は買い手が決定します。
最近の変更により、従業員10名未満の英国マイクロビジネスに対するTUPEの協議要件が簡略化されました。歓迎すべき調整ではありますが、ヨーロッパ全体の義務(従業員への協議、解雇手続き、労働組合や労働協議会の関与など)は依然として残ります。
全体として、法定移管は構造と法的明確性を提供しますが、柔軟性は制限されます。買い手は既存の雇用条件を引き継ぐことになり、条件を変更すると法的紛争や従業員の反発を招く可能性があります。
辞職・再雇用:自主的な移行
法定移管が適用されない場合、または買い手側がより柔軟な管理を望む場合、従業員は売り手を辞めて買い手に直接入社することができます。
この「辞職・再雇用」モデルは、移管法のない市場で一般的です。柔軟性がありますが、慎重な対応が必要です。
適しているケース
- 法定移管規則のない国
- 従業員が自動的に移管されない資産のみの取引
- 少人数の従業員グループで個別交渉が可能な場合
- 雇用条件を大きく変更したい買い手
GoGlobalのアプローチ:GoGlobalでは、まず従業員ごとの現状パッケージ(給与、福利厚生、契約条件)を詳細に確認します。全従業員が「同等以上」の待遇で移行できるようサポートします。
この方法は、TUPEの理念を法的制約なしで実現するイメージです。
重要なポイント
- 勤続年数の引き継ぎ:過去の勤続を保持したり、年功に関わる条項を調整
- 福利厚生の整合:追加保険、手当、ポリシー更新でギャップを埋める
- 従業員の定着:公正さが伝わることで従業員のエンゲージメントを維持
- コンプライアンス:従業員に対する約束が確実に守られる
「辞職・再雇用」モデルは、柔軟性と公正さを両立させ、事業の継続性と従業員の士気を守ります。
解雇・再雇用:クリーンブレイク方式
場合によっては、売り手が通知期間と退職金を支払い、その後買い手が従業員を新しい条件で再雇用することがあります。
これにより雇用関係を一度リセットでき、大規模なリストラクチャリングを行う場合や、移管条件上必要な場合によく用いられます。
適しているケース
- 売り手が退職金や解雇手当を全額支払う場合
- 職務内容や雇用条件が大幅に変更される場合
- 福利厚生制度の整合が難しい場合
- 旧雇用と新雇用を明確に分ける必要がある場合
利点
- 買い手が完全に管理できる
- 新しい契約書を発行でき、スタート日や福利厚生を自由に設定可能
- 過去の条件を引き継ぐ必要がない
地域ごとの注意点
- UAE:退職金規則や移管タイミングには正確な調整が必要
- 日本:従業員の受け入れには、コミュニケーション方法や文化的期待を考慮することが重要
適切な雇用形態の選択
どの移籍方式を採用する場合でも、買い手は移籍される従業員をどの雇用形態で受け入れるかを決定する必要があります。
雇用形態 | 仕組み | 適しているケース | 制限・考慮点 |
---|---|---|---|
海外雇用代行(EOR:Employer of Record) | EORが法的雇用主となり、買い手は運用管理を継続。迅速な入社手続きが可能。 | 移行期間が短い(2〜4週間)国ごとの少人数従業員グループ長期的な現地拠点が不確定即時の業務継続が必要 | 一部国ではビザスポンサー不可(例:シンガポール、オーストラリア)ストックオプション制限の可能性直接雇用より従業員1名あたりコストが高い |
Non-Resident Payroll(NRP) | 買い手が法的雇用主。給与・税務登録のみ行い、現地法人は不要。 | EORより直接雇用を希望する場合NRP対応国(EU、オーストラリア、カナダ、イスラエル)での利用EORから移行して経験向上 | 国による提供可否が異なる大規模従業員には不向き雇用者ブランディングの管理が必要現地法人設立まで6〜24か月の猶予 |
現地法人設立 | フル現地法人を設立。買い手が法的雇用主として完全管理。 | 長期的な市場参入大規模従業員グループビザスポンサーが必要収益を上げる事業運営 | 福利厚生・給与体系が複雑設立に時間とコストがかかる法務・人事インフラが必要EOR/NRPより展開が遅い |
実行の枠組み
取引ごとに状況は異なりますが、以下のシンプルな枠組みが計画策定の指針になります。
移管方式 | 適用ケース | 注意点 |
---|---|---|
法定移管(Statutory Transfer / TUPE) | イギリス・EUの資産移管で法律により義務付けられる場合従業員が移管対象事業に割り当てられている場合継続的な事業活動が含まれる場合 | 従業員協議義務条件の柔軟性が限られる労働協議会の関与が必要 |
辞職・再雇用(Resign and Hire) | 法定移管が不要な場合少人数の従業員グループ条件に柔軟性が必要な場合「同等以上」の待遇を保証可能 | 従業員の受け入れリスク福利厚生の複雑な分析勤続年数の引き継ぎに課題 |
解雇・再雇用(Terminate and Hire) | 売り手が退職金を全額支払う場合大幅なリストラクチャリングが必要な場合旧雇用と新雇用を明確に分けたい場合 | 従業員関係への影響文化的配慮が必要タイミング調整が重要 |
成功のための重要要素
- 早期の関与:取引計画の段階で移行の専門家を巻き込むことで、実現可能性の評価やリスクの特定、より良い戦略設計が可能になります。
- 包括的な分析:従業員の移行ごとに、現地法規、契約条件、タイミングを慎重に確認する必要があります。
- 現地知識:UAEの退職金規則や日本の雇用文化など、国ごとの専門知識が移行の成功を左右します。
- 統合的アプローチ:ハイブリッド戦略が有効なことが多いです。まずEORやNRPで迅速に移行し、その後業務が安定した段階で現地法人設立に移行します。
コンプライアンスと業務継続を見据えた体制構築
資産カーブアウトにおける従業員の移行は、熱意だけでは成立せず、現地事情の理解、確実な対応、文化的配慮が必要です。目標はシンプルで、法令遵守を確保し、業務を継続させ、従業員を守ることです。
GoGlobalでは、クライアントが複雑さを乗り越え、移行を最適な形でできるよう支援します。こうして、取引完了後も長期にわたり成長できるチームを構築できます。
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