はじめての海外赴任ガイド連載第2回:海外赴任の税金はどうなる? 居住者・非居住者の判定と確定申告の基本【2026年版】

はじめに:海外赴任の税金は「居住者判定」が出発点
海外赴任者から最も多く寄せられる質問の一つが「海外に行ったら、日本の税金はどうなるの?」というものです。結論から言えば、答えは「赴任後にあなたが日本の所得税法上の『居住者』なのか『非居住者』なのかで大きく変わる」となります。
この判定を誤ると、本来支払う必要のない税金を払うことになったり、逆に申告漏れで追徴課税の対象になったりします。さらに「住民税は出国年も翌年も支払い義務が続く」「外国税額控除を使わないと二重課税になる」など、実務上のポイントは少なくありません。 本ブログでは、海外赴任者の税金にまつわる論点を、出国前・赴任中・帰国後の3つのフェーズに分けて、人事担当者と赴任者本人の両方の視点から整理します。
【基本】居住者・非居住者の判定基準
日本の所得税法では、納税者を「居住者」と「非居住者」に分け、課税範囲を区別しています。
居住者と非居住者の違い
| 区分 | 定義 | 課税範囲 |
| 居住者 | 日本国内に住所がある、または現在まで引き続き1年以上居所がある個人 | 国内外すべての所得(全世界所得) |
| 非居住者 | 居住者以外の個人(生活の本拠地が日本国外にある) | 国内源泉所得のみ |
「1年以上の海外赴任」が判定の目安
実務上、「契約・辞令などで赴任期間が1年以上と明らかに見込まれる場合」は、出国の翌日から非居住者として扱われます。逆に1年未満の予定で出国した場合は、引き続き居住者扱いです。 ただし、これはあくまで原則。実際には「生活の本拠地がどこにあるか」が総合判断されます。家族を日本に残して単身赴任する場合や、日本に住宅を所有している場合などは、税務当局が居住者と判断するケースもあるため注意が必要です。
| 人事担当者向けポイント 辞令で赴任期間を明確化することが、居住者判定の出発点になります。 「とりあえず1年」のような曖昧な辞令は、税務上のリスクを高めます。 海外赴任規程に赴任期間の標準(例:原則3〜5年)を明記しておくと、判定がスムーズです。 |
【出国前】準確定申告と年末調整
年内出国の場合:出国時年末調整を行う
1年以上の海外赴任で年の途中に出国する場合、出国までに勤務先が「出国時年末調整」を行います。これは通常の年末調整を、出国の日に前倒しで実施するイメージです。1月1日から出国日までの給与所得について、所得控除を反映した上で精算します。
給与所得のみの会社員であれば、これで日本での所得税の課税関係は完了です。確定申告は不要です。
準確定申告が必要なケース
ただし、給与所得以外の所得がある場合や、給与収入が一定額(2,000万円超)を超える場合は、出国までに「準確定申告」が必要です。
準確定申告が必要となる主なケース:
- 給与収入が2,000万円を超える
- 給与所得・退職所得以外の所得が20万円を超える(副業、投資収益など)
- 不動産収入がある
- 医療費控除や住宅ローン控除など、年末調整で処理できない控除を受けたい
準確定申告は、出国の日までに行うのが原則です。期限を過ぎると無申告加算税の対象になるため、辞令が出たらすぐに税理士や経理部門と相談しましょう。
納税管理人の選定
出国後も日本での確定申告や納税が必要な場合(不動産所得がある、住民税の納付が残っているなど)は、「納税管理人」を選定する必要があります。納税管理人は、本人に代わって日本での税務手続きを行う代理人で、税務署に「納税管理人の届出書」を提出します。 納税管理人は親族でも税理士でも可能ですが、専門的な判断が必要になる場面が多いため、税理士に依頼するケースが一般的です。
【赴任中】非居住者期間中の課税
給与所得は原則として日本では非課税
海外赴任中の給与は、現地法人から支払われる分はもちろん、日本本社から支払われる分も含めて、原則として「国外源泉所得」となり、日本では課税されません。これは、給与に対応する役務提供(労働)が国外で行われているためです。
| 例外:役員報酬は国内源泉所得 日本法人の役員(取締役、執行役、会計参与など)として海外に赴任している場合、その役員報酬は赴任中も日本での課税対象となります。 現地での就労実態にかかわらず、日本法人の役員報酬は「国内源泉所得」として20.42%の源泉徴収が行われます。 現地国でも課税される場合、外国税額控除や租税条約による調整が必要になります。 |
日本国内に残した所得への課税
非居住者であっても、日本国内に源泉のある所得(国内源泉所得)には日本の所得税が課されます。海外赴任者でよくあるのは次のようなケースです。
非居住者でも日本で課税される主な所得:
- 日本国内の不動産を貸している場合の家賃収入
- 日本国内の不動産を売却した場合の譲渡所得
- 日本法人の役員報酬
- 日本での退職金
- 日本国内で得た事業所得・利子・配当など
不動産収入がある場合、賃借人(または管理会社)が家賃の20.42%を源泉徴収して納付し、その上で納税管理人を通じた確定申告で精算するという流れになります。
PE(恒久的施設)がある場合の扱い
非居住者がPE(恒久的施設)を持つ場合、PEに帰属する所得は総合課税の対象となります。海外赴任のサラリーマンが日本に自宅を所有し誰かに賃貸している場合、その自宅がPEに該当することもあるため注意が必要です。
【見落とし注意】住民税の取扱い
住民税は、所得税とは別の論点として整理する必要があります。住民税は、毎年1月1日時点で日本に住所がある人に対して、前年(1月〜12月)の所得に基づいて課税される仕組みです。
出国年と翌年の住民税
| 住民税ルールの整理 【ケース1】2026年5月に出国 → 2026年1月1日時点で日本に住所あり → 2025年の所得に基づく住民税を2026年6月以降に納付する必要あり 【ケース2】2025年12月31日までに出国し住民票を除いた → 2026年1月1日時点で日本に住所なし → 2026年に納付する住民税は発生しない(2024年所得に基づく住民税は2025年6月から納付済み) |
出国するタイミングによって、住民税の支払い義務が1年分変わってきます。12月出国と1月出国では、住民税負担が大きく異なるため、可能であれば年末ギリギリの出国を狙うのも一つの戦略です(もっとも、業務の都合上難しいケースが多いですが)。
出国後の住民税の納付方法
出国後に残る住民税の納付には、以下の3つの方法があります。
- 【方法1】出国前に一括納付:未納の住民税を出発前に全額納める
- 【方法2】会社が天引き継続:在籍出向で給与支給が続く場合、会社が特別徴収を継続
【方法3】納税管理人経由で納付:納税管理人を立て、普通徴収で年4回納付
【重要】二重課税を回避する仕組み
海外赴任者にとって最大の懸念は、日本と現地国の両方で課税される「二重課税」です。これを回避するため、日本は世界80カ国以上と租税条約を結んでおり、二重課税を避ける仕組みが整備されています。
外国税額控除
居住者期間中の所得について現地国で税金を支払った場合、その金額を日本の所得税から控除できる仕組みです。これにより、同じ所得に対して両国で課税されることを防ぎます。
租税条約による軽減・免除
二国間の租税条約により、特定の所得(配当、利子、ロイヤルティなど)について、現地国での源泉税が軽減されたり免除されたりします。条約の適用を受けるには、現地で「租税条約に関する届出書」の提出が必要です。
| 税務管理は専門家の関与を 海外赴任者の税務は、日本側と現地側の両方の制度を理解する必要があり、独力で完璧に対応するのは現実的ではありません。 特に給与に複数の支給元(日本本社+現地法人)があるケース、役員報酬を受けるケース、複数国での勤務があるケースでは、必ず国際税務に詳しい税理士の関与をお勧めします。 企業側も、グローバルモビリティ専門のアドバイザーを巻き込むことで、駐在員1名あたり数百万円規模の二重課税リスクを回避できます。 |
【帰国年】帰任時の税務処理
帰国時には、居住者と非居住者のステータスが切り替わるため、税務処理は少し複雑になります。
帰国年の確定申告
帰国した日の翌日から再び居住者となります。帰国年の確定申告では、次の2つを合算して計算します。
- 帰国前(非居住者期間)の国内源泉所得
- 帰国後(居住者期間)の全世界所得
帰国時に受け取る赴任手当の精算金や、現地での未払い給与の支払いなどがある場合、その所得がどの期間に帰属するかで課税の扱いが変わります。実務上のミスが多発するポイントなので、税理士の確認を強く推奨します。
帰国後の住民税
住民税は、帰国した翌年の1月1日時点で日本に住所があれば、その翌年6月から課税が再開されます。ただし、帰国年は前年(赴任中)の所得に基づく住民税は発生しないため、帰国の翌々年から再びフル課税の状態になります。
【人事担当者向け】税務面で押さえるべき5つの論点
論点1:給与の支払い方式(グロスアップ)
現地で課税される税金を会社が肩代わりする場合、その負担額自体が再び課税対象となるため、「グロスアップ計算」が必要になります。これを誤ると、駐在員の手取りが計画より大幅に減少するトラブルにつながります。
論点2:タックスイコライゼーション
赴任先によって税負担が異なると、赴任者間で不公平感が生じます。これを調整するために、「もし日本で勤務していたら支払うはずの税金」を仮定し、実際の負担と差額を会社が補填/回収する仕組みが「タックスイコライゼーション」です。
論点3:PE認定リスク
現地法人を持たないまま社員を派遣し、現地で営業活動や契約締結を行うと、税務当局が「日本企業の恒久的施設(PE)が現地にある」と判定し、法人税の課税対象とされるリスクがあります。
論点4:社会保障協定の活用
税務とは別ですが、社会保障協定によって現地の社会保険料負担を回避できる場合があります。詳細は連載第3回で解説しますが、税務とセットで設計することが重要です。
論点5:そもそも「赴任」が最適か
| EOR活用による税務リスクの低減 現地法人を持たずに海外人材を雇用したい、あるいは少人数の進出で税務リスクを最小化したい場合、EOR(Employer of Record)サービスの活用が有効です。 EORを使えば、現地法人を設立せずに合法的に現地スタッフを雇用でき、PE認定リスクや給与計算・現地税務の負担を大幅に減らせます。 GoGlobalでは、80カ国以上で現地法令に準拠したEORサービスを提供し、税務リスクの管理までトータルでサポートしています。 |
まとめ:税務は「事前設計」がすべて
海外赴任の税金は、出国してから慌てて対応しても手遅れになるケースが多くあります。居住者判定、出国時の年末調整、住民税の納付方法、納税管理人の選定、租税条約の適用――これらは出国前から計画的に進める必要があります。
人事担当者の方は、赴任者個人に手続きを任せきりにせず、税理士や専門アドバイザーと連携して、組織として税務リスクを管理する体制づくりを進めましょう。海外赴任者を多く抱える企業ほど、税務の標準化と専門家の活用がコスト削減と人材リテンションの両面で効いてきます。
| GoGlobalがサポートできること GoGlobalは、80カ国以上で展開する海外雇用代行(EOR]:Employer of Record)および海外BPOサービス(BCS)(BCS:Business & Corporate Service)のグローバルプロバイダーです。 ・現地法人を持たずに合法的に海外人材を雇用したい ・海外赴任者の税務リスクを最小化したい ・PE認定リスクや二重課税を回避する設計を相談したい ・複数国に展開する赴任者の税務を一元管理したい こうしたお悩みに、グローバルモビリティ・国際税務の 専門チームが日本語でご相談を承ります。お気軽にお問い合わせください。 |
連載:はじめての海外赴任ガイド
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連載第1回:海外赴任が決まったら最初にやるべき15のこと【2026年版】
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