はじめての海外赴任ガイド連載第1回:海外赴任が決まったら最初にやるべき15のこと【2026年版】

はじめに:海外赴任の「準備不足」は深刻なリスクになる
「海外赴任の辞令が出てから出発まで3ヶ月しかない」このようなケースは決して珍しいことではありません。海外赴任は、国内転勤とはまったく次元の異なるプロジェクトです。ビザの取得、税金や社会保険の切り替え、住居の処分、家族の帯同手続き、現地での生活立ち上げなど、やるべきことは数十項目にのぼり、一つでも抜け漏れがあると、出国できない、現地で給与が振り込まれない、二重課税で大きな損失が出るといったトラブルに発展しかねません。
特に2026年現在、グローバルモビリティを取り巻く環境は大きく変化しています。各国の就労ビザ要件は年々厳格化し、PE(恒久的施設)認定リスクへの対応や、リモートワーカーの税務処理など、人事担当者が押さえるべき論点は増え続けています。 このブログでは、海外赴任が決まった瞬間から出発までに必ずやるべき15のことを、優先順位順に整理しました。赴任者本人はもちろん、社員を送り出す人事・総務担当者にも実務で使えるチェックリストとしてご活用ください。
【全体像】海外赴任までのスケジュール
個別の手続きに入る前に、出発までのスケジュール感を押さえておきましょう。手続きの多くは「いつまでに」が明確に決まっているため、逆算して動くことが何より重要です。
| 時期 | 主なタスク | 優先度 |
|---|---|---|
| 3ヶ月前 | パスポート・ビザ申請、家族の帯同方針決定、住居の処分方針 | 最優先 |
| 2ヶ月前 | 健康診断・予防接種、引越業者選定、税金・社会保険手続き | 高 |
| 1ヶ月前 | 各種解約手続き、荷造り、現地情報収集 | 中 |
| 出発2週間前 | 国外転出届、現地通貨両替、最終チェック | 高 |
海外赴任が決まったら最初にやるべき15のこと
1. 赴任先の基本情報を整理する
最初にやるべきは、情報の整理です。赴任先の国、赴任期間、帯同家族の有無、現地での役職と業務内容。これらは後続のすべての手続きに影響します。特に「赴任期間が1年以上か未満か」は、住民票・税金・社会保険のすべてで判断基準になる重要なラインです。
| 人事担当者向けポイント 辞令を出す段階で、赴任期間・職務内容・赴任形態(出向/転籍/EOR雇用)を明確化しておくと、その後の規程適用や税務判定がスムーズです。 曖昧なまま進めると、PE認定リスクや社会保障協定の適用判断で混乱が生じます。 |
2. パスポートの確認・取得
海外赴任が決まったら、何よりも先にパスポートを確認します。すでに持っている方も「有効期限」と「残存期間」のチェックは必須です。多くの国では入国時に6ヶ月以上の残存期間を求められ、長期滞在ビザではさらに長い残存期間が必要なケースもあります。 新規申請・更新には1〜2週間かかります。家族帯同の場合は、配偶者・お子様全員分のパスポートも忘れずに。
3. ビザ・労働許可の申請
ビザ取得は海外赴任で最もハードルが高い手続きの一つです。国によって要件が大きく異なり、無犯罪証明書、健康診断書、学歴証明書、戸籍謄本のアポスティーユなど、準備に1〜3ヶ月かかる書類も少なくありません。 通常は会社(勤務先)が手配しますが、必要書類の収集は本人が行うため、辞令が出たらすぐに着手しましょう。シンガポール、マレーシア、タイ、ベトナム、インドネシアなどASEAN諸国では、近年外国人就労規制が厳格化しており、給与水準やポジションに関する要件も国ごとに異なります。
| PE認定リスクに注意 現地法人を持たないまま社員を送り、契約締結権限を持たせて活動させると、税務上「恒久的施設(PE)」と認定され、現地法人税の課税対象になるリスクがあります。 現地法人の設立に時間がかかる場合、雇用代行(EOR:Employer of Record)サービスを使って合法的に雇用関係を整える方法も選択肢になります。 |
4. 健康診断・予防接種
ビザ申請で健康診断書の提出を求める国は多く、また予防接種は接種から効果発現まで一定期間を要するものがあります。黄熱病(中南米・アフリカ向け)、A型・B型肝炎、破傷風、狂犬病など、赴任先によって推奨ワクチンが異なるため、トラベルクリニックで早めに相談しましょう。 歯科治療も出国前に済ませておくのが鉄則です。海外では歯科治療が高額で、保険適用外になるケースも多いためです。
5. 税金(所得税・住民税)の手続き
1年以上の海外赴任の場合、税法上「非居住者」となり、給与に対する課税の取扱いが大きく変わります。出国の日までの所得については、出国前に「準確定申告」を行うか、会社が年末調整に準じた処理を行います。 住民税は、その年の1月1日に日本に住所があった人に対して6月以降に課税されるため、出国年の住民税は赴任後も支払い義務が残ります。会社が天引きで継続するか、納税管理人を立てて納付する方法が一般的です。
| 注意:二重課税のリスク 現地でも所得税が課される場合、租税条約の適用や外国税額控除によって二重課税を回避します。 詳細は連載第2回「海外赴任の税金はどうなる?居住者・非居住者の判定と確定申告の基本」で解説します。 |
6. 社会保険(健康保険・年金)の手続き
海外赴任中の社会保険の取扱いは、「日本の社会保険を継続するか/脱退するか」で大きく分かれます。多くの企業では、出向元との雇用関係を維持したまま海外赴任させるため、日本の健康保険・厚生年金が継続適用されます。
また、赴任先国とのあいだに社会保障協定が結ばれている場合、現地の社会保険への加入が免除される可能性があります。2026年時点で、日本は20カ国以上と協定を発効しており、対象国であれば「適用証明書」を取得しておくことが重要です。 詳細は連載第3回「海外赴任者の社会保険はどうなる?健康保険・年金・労災の取扱いを解説」で扱います。
7. 海外赴任者向け医療保険の加入
日本の健康保険は海外でも一部使えますが、現地の医療費を一旦全額立替え、帰国後に「海外療養費」として請求する仕組みです。請求できるのは日本国内の保険診療相当額のみで、現地で実際にかかった金額との差額は自己負担になります。
そのため、海外赴任者向けの民間医療保険(駐在員保険)への加入が事実上必須です。多くの企業では会社が一括契約しています。家族帯同の場合は、家族分の保険手配も忘れずに。
8. 住居の処分方針を決める(持ち家・賃貸)
持ち家の場合、選択肢は3つあります。①売却する、②空き家として残す、③定期借家で賃貸に出す。それぞれ税務上・コスト面でメリット・デメリットがあるため、家族で早めに方針を決めましょう。賃貸契約の場合は1〜2ヶ月前までに解約通知を出すのが一般的です。 持ち家を残す場合、固定資産税の支払い、火災保険の見直し、定期的な清掃・点検なども必要です。空き家管理サービスの活用も検討しましょう。
9. 子どもの学校・教育機関の手配
家族帯同の場合、お子様の教育環境は最重要事項の一つです。日本人学校、現地校、インターナショナルスクールという3つの選択肢があり、それぞれ授業料、入学条件、待機リストの状況が大きく異なります。 人気校では入学待ちが半年〜1年に及ぶこともあるため、赴任先が決まったら即座に動きます。海外子女教育振興財団(JOES)から教科書を受け取る手続きも忘れずに行いましょう。
10. 配偶者の仕事・キャリアの整理
配偶者が日本で働いている場合、退職、休職、リモート継続など対応を決める必要があります。退職する場合、雇用保険の受給期間を延長する手続き(離職後30日経過後〜4年以内)を忘れずに。
| 配偶者のキャリア継続という選択肢 近年は、配偶者の海外赴任に帯同しながらも、本人がリモートで日本企業の業務を継続するケースが増えています。 ただし、現地での就労許可や税務上の取扱いには注意が必要です。雇用元企業がEORサービスを活用して合法的に雇用関係を継続するパターンもあります。 |
11. 銀行口座・クレジットカード・各種契約の整理
国外転出届を出すと「非居住者」扱いとなり、日本の銀行口座や証券口座が使えなくなる場合があります。事前に各金融機関に確認し、必要な手続き(非居住者口座への切替、解約など)を行いましょう。
整理が必要な主な契約:
- 銀行口座(非居住者対応の確認)
- 証券口座(多くは出国前に売却・解約が必要)
- クレジットカード(海外利用可否、家族カード作成)
- 生命保険・医療保険(継続可否、見直し)
- 携帯電話・インターネット・各種サブスクリプション
- 電気・ガス・水道・NHK
- 新聞・宅配サービス
12. 引越し業者の選定と荷造り
海外引越しは、船便と航空便を使い分けるのが基本です。船便は到着まで2ヶ月以上かかるため、出発の2ヶ月前には荷造りを始める必要があります。航空便は到着が早い分、コストは高めです。
通関手続きにはインボイス(内容物リスト)の作成が必要です。段ボールごとの中身とおおよその金額をメモしておくと、業者とのやり取りがスムーズです。
13. 自動車・運転免許の手続き
自動車を所有している場合は、売却・廃車・家族への譲渡・保管のいずれかを選びます。自動車保険も解約または「中断証明書」の発行を依頼しましょう(中断証明書があれば、帰国後に再加入する際に等級を引き継げます)。 現地で運転する場合は、国際運転免許証を取得しておきます(ジュネーブ条約加盟国で有効)。中国・ベトナム・インドネシアなど未加盟の国では、現地の免許切替が必要になります。
14. 国外転出届の提出
1年以上の海外滞在の場合、市区町村役場に「国外転出届」を提出します。受付は出発の14日前から。これにより住民票が除票され、住民税・国民健康保険・国民年金(任意継続を除く)の対象から外れます。 マイナンバーカードの継続利用を希望する場合は、必ず窓口で手続きを行います(郵送不可)。印鑑証明書は取得できなくなるため、必要な場合は出発前に取得しておきましょう(赴任後は在外公館で署名証明書が代替となります)。
15. 在留届の提出(赴任後すぐ)
海外滞在が3ヶ月を超える場合、現地の日本国大使館または総領事館に「在留届」を提出することが法律で義務付けられています(旅券法第16条)。オンラインシステム「ORRネット」から手続きできます。 在留届を出しておくと、緊急事態(災害・テロ等)の際に大使館から連絡を受けられるほか、選挙の在外投票や各種証明書の発行手続きにも必要となります。
人事担当者が見落としがちな3つの論点
ここまでは赴任者本人の手続きを中心に整理してきましたが、社員を送り出す人事・総務担当者の視点では、別の論点も浮上します。
論点1:海外赴任規程の整備状況
赴任手当、住宅手当、ハードシップ手当、子女教育手当、一時帰国手当など、海外赴任には多くの手当が発生します。これらが規程として明文化されていないと、毎回の個別判断でブレが生じ、社員間の不公平感や訴訟リスクにつながります。連載第5回で詳しく扱います。
論点2:社会保障協定の適用判断
赴任先が社会保障協定の対象国であれば、5年以内の派遣であれば現地の社会保険加入を免除できます。「適用証明書」の取得を忘れると、日本と現地の両方で社会保険料を支払う二重負担が発生します。
論点3:そもそも「赴任」が最適解か?
| 駐在員のコストと、現地採用・EORという選択肢 海外駐在員1名あたりの年間コストは、給与・手当・住宅・教育費・医療保険などを含めると、本人年収の2〜3倍に達するケースも珍しくありません。 「現地法人を立ち上げて駐在員を送る」以外にも、現地採用やEOR(Employer of Record)サービスを使って合法的に現地人材を雇用する選択肢もあります。 テストマーケティング段階や少人数の進出では、EOR活用のほうがコスト・スピード・撤退リスクの面で優位なケースが多くあります。 |
まとめ:抜け漏れを防ぐには「逆算スケジュール」が鍵
海外赴任の準備は、項目数が多いだけでなく、それぞれが連鎖的に絡み合っています。ビザ申請には健康診断書が必要、転出届を出すと印鑑証明が取れない、住民税は出国後も支払い義務が続くなど、「順番」と「期限」を間違えると、後戻りできない事態になります。
本ブログの15項目を、辞令が出た瞬間からチェックリストとして使い始めてください。そして人事担当者の方は、個別の赴任者対応と並行して、規程の整備や社会保障協定の確認、そして「そもそも赴任という形で送るのが最適か」という戦略的な問いにも目を向けてみてください。
GoGlobalがサポートできること
GoGlobalは、80カ国以上で展開するEOR(Employer of Record)およびBCS(Business & Corporate Service)のグローバルプロバイダーです。
- 現地法人を持たずに海外人材を合法的に雇用したい
- 赴任前に現地でテストマーケティングを行いたい
- 配偶者帯同に伴う社員のリモート就労を継続させたい
- 社会保障協定や税務リスクの判断に専門知識が必要
こうしたお悩みに対して、グローバルモビリティの専門チームが日本語でご相談を承ります。お気軽にお問い合わせください。
本ブログで提供する内容は、一般的な情報提供のみを目的としたものであり、法的助言と見なすべきものではありません。今後規制が変更されることがあり、情報が古くなる可能性があります。GoGlobalおよびその関連会社
