ヨーロッパ法人設立:最新ウェビナーからの専門家の見解

国際ビジネスは近年、多くの逆風に直面していますが、ヨーロッパは国際展開の明るい注目地域として浮上しています。EUobserverのレポートによると、「パーフェクトストーム」が新たな外国直接投資の波を生み出そうとしています。
世界貿易が不安定な中でも、ヨーロッパは成功の基盤を備えています。高学歴の労働力へのアクセス、大規模な消費市場、そして世界のどの地域にも引けを取らないデジタルインフラがその強みです。
一方で、ヨーロッパでの法人設立はコンプライアンス対応が厳しく、人材面の配慮も欠かせず、運営における細やかな対応が求められます。そこで私たちは、GoGlobalのシニアマネージャー、ジャスティン・ヒル氏を招き、「Ask Me Anything(なんでも聞いて)」と題したウェビナーを開催しました。ジャスティン氏は10年以上にわたり国境を越えたビジネス支援を手がけ、数百社のヨーロッパ進出をサポートしてきた専門家です。彼のアドバイスはシンプルながら的確です。「複雑に考えすぎず、かといって行き当たりばったりに進めるのも避けるべき」ということでした。
ここでは、ウェビナーで特に多く寄せられた6つの質問と、その答えを紹介します。貴社の展開戦略に役立つヒントが詰まっています。
ヨーロッパでの法人設立に適した国はどこ?
「これがベスト」という一律の答えはありません。業種や従業員数の計画、ビジネスモデルによって、最適な国は変わります。しかし、何度も名前が挙がる国がいくつかあります。
ジャスティン氏によると、常に上位に挙がるのは「イギリス」「アイルランド」「オランダ」の3か国です。これらはビジネスに優しい規制、税制上のメリット、市場参入までのスピード感のバランスが非常に良いのが理由です。
特に、迅速かつ効率的に事業を開始したい企業に適しています。それぞれの特徴は以下の通りです。
国名 | 言語の利点 | 法人税率 | 資本金要件 | 設立期間 |
---|---|---|---|---|
イギリス | 英語ネイティブ | 25% | 1ポンド | 3.5~8.5週間 |
アイルランド | 英語ネイティブ | 12.5% | 1ユーロ | 5~10.5週間 |
オランダ | ほぼ英語ネイティブ | 19% | 1ユーロ | 6~11週間 |
言語が共通していることでコミュニケーションの齟齬が少なく、資本金要件が低いため初期リスクも抑えられます。また、設立までの期間が短いことで、より早く収益を生み出せる点も大きなメリットです。
結論として、スピーディーかつスムーズに立ち上げたい場合は、この3か国を候補に入れることをおすすめします。
実際にどれくらい時間がかかるのか?
設立にかかる期間は国や会社の状況によって異なりますが、ヨーロッパの法人設立はおおむね似た流れで進みます。
一晩で事業開始、というわけにはいきませんが、適切な計画があれば、通常3か月以内には営業をスタートできます。
以下は一般的なスケジュールの目安です。
手続き項目 | イギリス | アイルランド | オランダ |
---|---|---|---|
法人登録 | 1〜2営業日(オンライン可) | 3〜5営業日 | 5〜10営業日 |
給与登録 | 5~10営業日 | 7~10営業日 | 5~10営業日 |
VAT(消費税)登録 | 2~4週間 | 4~8週間 | 2~4週間 |
法人税登録 | 1〜2週間(法人登録と同時) | 2〜3週間(登記後) | 2〜3週間(自動または申請) |
銀行口座開設 | 2〜6週間(審査が厳しい) | 2〜4週間(イギリスより簡単な場合も) | 3〜6週間(審査が厳しい) |
合計目安期間 | 3.5~8.5週間 | 5~10.5週間 | 6~11週間 |
ワンポイントアドバイス:特定の日付から従業員を雇う予定がある場合は、給与登録を開始するのは少なくとも1週間前が目安です。
設立プロセスを遅らせる主な要因とは?
法人設立や銀行口座開設において最もよくある遅延の原因は、複雑な法人構造です。
所有構造が複雑な場合、KYC(顧客確認)やAML(マネーロンダリング防止)の審査が長引き、法人設立や銀行手続きの進行が大幅に遅れる可能性があります。
金融機関や規制当局が警戒する典型的な要素は以下の通りです。
- 多層的な持株構造(親会社・子会社が複数階層にわたる)
- 実質的支配者(Beneficial Owner)が複数存在する
- 証明書類が外国語で作成されており、翻訳やアポスティーユ(公証)が必要
- タックスヘイブンとされる国・地域に関係する企業や人物が含まれている
特に見落とされがちなのが銀行口座の開設です。法人設立後であっても、銀行による独自のデューデリジェンス(審査)は非常に厳格であり、場合によっては政府の登録手続きよりも時間がかかることもあります。
従業員はヨーロッパ域内を自由に移動できるのか?
EU圏内であれば基本的に可能ですが、いくつかの条件があります。移動自体は自由ですが、給与・税務・社会保険の取り扱いは滞在期間によって異なります。
■ 短期の出向・派遣(一般的に6か月以内)
- A1証明書(社会保障適用証明書)を使用することで、従業員を本国の社会保険制度のまま維持することが可能です
- 給与支払いや税務上の居住地を切り替える必要はありません
- プロジェクト単位やローテーション形式の勤務に最適です
■ 長期または恒久的な異動
- 現地の給与体系に切り替える必要があります(ローカルペイロール)
- 現地の税務・社会保険機関への登録が必要です
- 企業として、現地法人または現地での給与支払い体制が求められます
重要なポイント:従業員の異動にあたっては、その配置形態(アサインメントの構造)が税務・社会保険などのコンプライアンス要件を大きく左右します。
給与処理や各種登録のタイミングを適切に調整せずに人材を移動させると、企業に対して罰則やペナルティが科されるリスクがあります。
コスト効率よく技術系人材を採用できるヨーロッパの国は?
西ヨーロッパほど高額な費用をかけずに優秀な人材を確保したいとお考えなら、東ヨーロッパを検討してみてはいかがでしょうか。
国名 | 特徴 |
---|---|
ルーマニア | 優秀な開発人材が豊富、競争力ある給与水準、採用コストも低め |
ポーランド | インフラが整備され、スキルの高い人材を比較的手頃な条件で採用可能 |
ハンガリー | IT・エンジニアリング・ファイナンス分野の人材が充実、コストも抑えられる |
東ヨーロッパは、単に「安価」であるだけではありません。実力ある人材を戦略的に確保できる「スマートな選択肢」として、多くの企業が注目しています。実際、Web開発やマーケティング、ITサポート拠点として活用し、グローバルに分散したチームを低コストで構築している企業も少なくありません。
ヨーロッパで優秀な人材を惹きつける福利厚生とは?
ヨーロッパでは、給与が「入り口」であり、福利厚生が「決め手」です。
まずは押さえておきたい基本の福利厚生は以下です。
- 法定を上回る有給休暇制度
- 柔軟な働き方(リモート、ハイブリッド、時差出勤など)
- 充実した育児・家族休暇制度
さらに、他社と差別化を図るための「プラスα」として有効なのがこちらです。
- 民間医療保険やウェルネスプログラムの提供
- 税制優遇のある年金拠出
- 学習・スキルアップのための補助金や研修・学費支援制度
ヨーロッパの優秀な人材が最終的にどの企業を選ぶかは、「職務内容」だけでなく、その企業がどれだけ生活全体を支えてくれるかによって大きく左右されます。
ボーナス質問:拠点はイギリスか、それともEUか?
この質問は、あるEコマース企業の創業者から寄せられたものです。課題はブレグジットにより通関手続きが煩雑化した一方で、イギリスは依然として魅力的な消費市場であるという現実があるということです。
これに対するジャスティンのアドバイスは「「UKかEUか」を二者択一にしないこと。」と明快です。顧客が両地域に分散しているなら、両方に法人を持つ選択肢を検討すべきです。
地域 | 主なメリット |
---|---|
イギリス | 大規模な市場、強固なインフラ |
EU諸国 | モノの自由な移動、VATや貿易手続きの簡素化 |
結論:
まずは顧客のいる場所に拠点を構えることです。そのうえで、将来的にオペレーション体制を段階的に拡大していくのが、リスクを抑えた効果的な戦略です。
国際企業がヨーロッパ進出で押さえておくべきポイント
ヨーロッパ市場への展開は、HR(人事)要件、厳格なデータコンプライアンス、給与制度、そして各国の市場期待という複雑な環境を乗り越える必要があります。
しかし、正しい戦略を取れば、摩擦を最小限に抑えつつ、人材確保とオペレーションで大きなアドバンテージを得ることが可能です。
以下のポイントを押さえておきましょう。
- シンプルに始める:
設立手続きの少ない構成を選べば、スピーディに事業を開始できます。 - 銀行手続きに備える:
口座開設は最大のスケジュールの変動要因です。事前準備が鍵となります。 - 東ヨーロッパは採用戦略の有力地:
コストパフォーマンスに優れ、優秀な人材が豊富です。 - 福利厚生に投資する:
採用競争を勝ち抜く決め手になります。 - UKかEUか?その答えは「場合によっては両方」:
顧客や事業戦略に応じて、二拠点体制も視野に入れましょう。
設立から拡大まで 正しく進めるためのサポートを
ヨーロッパ市場への進出には、情熱だけでなく、精緻な実行力が求められます。
法規制の違い、各国の給与・税務・コンプライアンス対応──すべてのディテールが、ビジネスの成功を左右します。
そのため、多くのグローバル企業は、グローバルな視点とローカルの実務知識を併せ持つビジネスパートナーと連携し、確実な進出を実現しています。
現地法人の設立、非居住者モデルでの雇用、多国籍給与計算管理など、統合的なサポート体制があることで、安心してスケールアップが可能です。
すべてのサポートが同じではありません。企業の成長ステージに応じて柔軟に対応できるパートナーであることが重要です。たとえば、法人設立や海外雇用代行サービス(EOR)、コーポレートセクレタリーの代行、給与計算、税務・会計、さらにはグローバルな送金管理まで、一貫して対応できる体制があることで、企業は煩雑な事務手続きに煩わされることなく、本来のビジネス成長に集中することができます。
進出をすべて自力で進める必要はありません。適切な支援があれば、ヨーロッパでの事業はスムーズに立ち上がり、初日から将来を見据えたスケーラブルな体制を築くことができます。
GoGlobalのグローバルソリューションが貴社のグローバルビジネス目標をサポートします。
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