オランダのエキスパット制度:グローバル人材確保を加速させる最強の仕組み

グローバル採用は、一筋縄ではいきません。税制、移住、コンプライアンスは、成長スピードの速いテック企業の前に立ちはだかる“見えない壁”です。
しかし、オランダはその壁を取り払っています。
長年にわたり、エキスパット制度(Expat Scheme、通称:30%ルーリング)は、世界中の企業が優秀な人材を安心して採用・移住させるための強力なサポートとなってきました。ヨーロッパの主要テック企業の成功の裏側には、この制度が静かに存在しています。
一方で、この制度は進化の真っ只中にあり、再びルールが変わろうとしています。新たな変更点には、所得上限、居住条件、そして2027年に予定される給付率の段階的引き下げなどが含まれます。
この制度がもたらすメリットは依然として大きいものの、その恩恵を最大限に活かすには正しい理解が不可欠です。
本ブログでは、新しく変わる点、これから起きること、そしてオランダの政策をどのように活用すればグローバル採用の武器にできるのかを整理して解説します。
なぜオランダはテック企業の欧州進出ハブとして強いのか
オランダは、美しい運河や風車だけの国ではありません。ヨーロッパで最も優れたテック進出拠点のひとつです。欧州市場でスケールを狙う企業にとって、同国は次のような強力な優位性を提供します。
- 欧州で最も高い非ネイティブ英語力
国際採用やグローバルチームとの連携に理想的な環境です。 - プロビジネスな規制と競争力のある法人税制度
企業設立のしやすさ、資本金まわりの明確なルールが整備されています。 - 高度なソフトウェア開発・データサイエンス・AI・デジタル領域の人材
単に人を採るのではなく、専門性そのものを取り込むことができます。
特にテック企業にとって、オランダのエキスパット税制優遇は、
候補者が手取りで受け取る金額を増やし、魅力的なオファーを提示し、採用コストの圧力を軽減する
強力な後押しとなります。
テック企業にとって実際に得られるメリットとは?
この制度の本質は、国際採用者に対して 「給与の一部を非課税扱いにする」または「特定の手当を非課税で支給する」 ことができる点にあります。
対象となるのは「域外費用(extraterritorial costs)」で、
リロケーション、子どもの教育費、特定の医療費や住宅関連費などがより有利に扱われます。
テック企業が激しい人材争奪戦に勝つために、この制度は次のように役立ちます:
- 採用候補者の手取り額を実質的に引き上げられる
- 国際的な人材プールを広げ、有意義なメリットを提示できる
- 魅力的かつコスト効率の高い報酬+リロケーションパッケージを設計できる
以下は、この制度による主なメリットの概要です。
| ベネフィット | テック企業が重視する理由 | 主な注意点 |
|---|---|---|
| 給与の最大30%(上限内)が非課税扱いに | シニア開発者・データサイエンティストへのオファーをより魅力的にできる | 基本給与の代替ではなく、条件を満たす必要あり |
| リロケーション、教育、医療費などの非課税精算 | グローバル人材に生活面で実質的なメリットを提供できる | 書類・コンプライアンス管理、税務署の承認が必要 |
| 企業設立や人材受け入れが比較的スムーズ | オランダはテック企業にとって「グローバルREADY」な市場 | とはいえ拡大には法人設立、給与計算、各種規制対応(KVK登録、給与税申告など)が必要 |
市場に合わせて進化する制度:知っておくべき最新アップデート
オランダのエクスパット制度(30%ルーリング)は、同国の労働市場や人材ニーズに合わせて設計されています。固定的な優遇策ではなく、常に見直しが行われ、適切さ・公平性・持続性が保たれる仕組みです。
2025年の変更点から読み取れるのは、高度国際人材の確保を目的としつつ、国内経済とのバランスも重視しているという明確な方向性です。
無視できない最新アップデート
税控除対象の30%は維持
2025年・2026年に雇用される対象人材は、給与の最大30%を非課税として受け取ることが可能です。これにより、テック企業はグローバル人材に競争力のある手取り額を提示できます。
給与上限は €246,000 に設定
非課税扱いが適用されるのは、年収 €246,000 までです。これを超える額については非課税メリットはありません。制度を“必要な役割”に絞るための仕組みです。
最低給与基準が更新
最新の基準により、本制度が真に高度な専門人材にフォーカスするよう調整されています。要件は以下のとおりです。
- 30歳以上:年間 €46,660 以上
- 30歳未満(修士号保有):年間 €35,468 以上
高度技能移民制度(Highly Skilled Migrant Scheme)の更新
30%ルーリングとは別制度ですが、併せて満たす必要がある場合があります。2025年の月額給与基準は以下のとおりです。
- 30歳以上:月 €5,688 以上(休暇手当除く)
- 30歳未満:月 €4,171 以上(休暇手当除く)
部分的非居住者扱いの廃止
2025年1月1日より、新規申請者はオランダの完全な税務上居住者として扱われ、世界所得が課税対象になります。複雑性を排除し、公平性を確保するための見直しです。
なお、2024年以前に申請した既存のエクスパットは、2026年12月31日まで部分的非居住者扱いを維持できます。
2027年には、次のような変化が予想されます。
- 非課税割合の引き下げ:2027年1月1日より、非課税割合は 27% になります。
- 給与基準のさらなる引き上げ:市場状況に応じて基準が再設定される予定です。
その他の重要ポイント
- 高額給与者について:たとえ年収が €250,000 の場合でも、非課税適用は €246,000 まで。
- 雇用主変更時の手続き:転職の場合、3ヶ月以内に制度を引き継ぐ必要があります。
- 専門性の証明:雇用主は、採用人材がオランダ国内で希少な専門スキルを持つことを証明しなければなりません。
テック企業への影響:戦略と計画の再考
グローバル採用を進める企業や、オランダ進出を検討しているテック企業にとって、今回の制度改定は“追い風”と“注意点”の両方をもたらします。
活用できるメリット
30%ルールの維持
2025年〜2026年も30%の非課税枠は継続。シニアクラスの国際人材向けに、競争力のあるオファーとして積極的に訴求できます。
雇用主ブランドの強化
本制度を活用できることは、「当社はグローバルに通用する移住サポートと手取り最適化を理解している」という強力なメッセージになります。トップ人材へのアピールとして有効です。
コスト効率の高い報酬設計
給与基準・上限・手当の扱いを正しく組み立てることで、雇用コストを抑えつつ魅力的な条件提示が可能になります。
これから注意すべきポイント
給与上限の影響
€246,000 の上限があるため、それを超える非常に高い給与帯の候補者はメリットを最大限享受できません。結果として、最上位層の候補者には手取りの魅力が薄れる可能性があります。
部分的非居住者扱いの廃止
世界所得がオランダで課税されるため、海外資産を多く持つ候補者(特に米・英など資産課税の影響を受けやすい層)にとっては、オファーの魅力が減少する可能性があります。
非課税率の引き下げ
2027年以降、非課税率は27%へ引き下げられ、給与基準も引き上げられます。2026年末〜2027年初の入社時期を想定する場合は、これを見越して計画する必要があります。
コンプライアンス対応
財務・HR・モビリティチームは、給与計算や予算計画をアップデートし、申請期限・期間制限・必要書類などに確実に対応する必要があります。
手続きを誤ると非課税メリットが失われ、競争力のあるオファーが“高コストで複雑な問題”へと変わりかねません。
テック企業が取るべき実務ステップ
採用ターゲットの棚卸し
自社のグローバル組織の中で、どの職種が本制度の恩恵を受けられるかを整理します。シニア開発者、データサイエンティスト、AIスペシャリストなどを具体的に洗い出しましょう。
給与レンジの確認
最低給与基準を満たしているか、また、意図せず上限を超えていないかを必ずチェックします。
オファーパッケージの構築
制度を採用戦略の“レバー”として活用します。国際候補者にアプローチする際は、「手取り額」「リロケーション支援」「教育手当」「モビリティ支援」などを中心にオファーを組み立てます。
ペイロール・ビザの専門家へ早期相談
30%ルーリングは雇用主側が申請する必要があります。申請漏れは致命的になり得るため、現地の専門家と早めに連携して進めることが重要です。
候補者への明確な説明
後からの“想定外”を防ぐため、給与上限、制度内容、将来の変更点(例:2027年の27%への引き下げ、部分的非居住者扱いの廃止)を事前に共有し、透明性を保ちましょう。信頼構築と定着率向上につながります。
2027年を見据えた計画
2026年以降の入社を予定している場合、30%と27%の両方のシナリオを試算し、柔軟性を持ったオファー設計を行うことが求められます。
具体的な数字で示す、制度がもたらす成果
具体的なイメージを持つために、グローバル人材として一般的な2つの職種、シニアソフトウェアエンジニアとミッドレベルUXデザイナーを例に見てみましょう。
ここでは、給与が上限を超えず、30%の非課税枠がフルに適用できるケースを想定しています。個々の税状況によって実際の金額は変動しますが、制度が手取り額に与える影響を示すには十分です。
| 職種 | 年収(総支給) | 制度なし(概算) | 制度あり(30%適用) | 手取り増加額 |
|---|---|---|---|---|
| シニアソフトウェアエンジニア | €75,000 | 税・社会保険 約€31,500 → 手取り 約€43,500 | 課税対象 €52,500 → 税 約€19,000 → 手取り 約€56,000 | +€12,500 |
| ミッドレベルUXデザイナー | €45,000 | 税・社会保険 約€15,750 → 手取り 約€29,250 | 課税対象 €31,500 → 税 約€9,450 → 手取り 約€35,550 | +€6,300 |
よくある質問
オランダ・エクスパット制度の2025年の所得上限はいくらですか?
2025年のエクスパット制度では、課税対象給与の30%までが非課税の対象となります(Balkenende基準まで)。つまり、給与が€246,000以上の場合、最大の非課税額は€73,800です。
部分的非居住者(Partial Non-Resident)として申請できますか?
2025年1月1日以降、新規申請者および2024年1月1日以降に制度適用が開始された人は、部分的非居住者としての選択はできません。全世界所得・資産に対してオランダの居住者課税が適用されます。ただし、2023年末以前に制度を利用していた既存のエクスパットは、2026年12月31日まで部分的非居住者ステータスを維持できます。
2027年に予定されている変更は何ですか?
2027年1月1日以降、制度(名称はExpat Schemeに変更予定)では非課税枠が最大27%に引き下げられます。対象となる最低給与水準も引き上げられます(ほとんどの職種で約€50,436、30歳未満で修士号保持者は約€38,338)。給与上限ルールは引き続き適用されます。
最後に:柔軟に動き、優秀な人材を採用する
グローバルにテックチームを拡大するなら、オランダは依然として魅力的な選択肢です。税制優遇は実際に使えるもので、意味があります。ただし、制度は急速に変化しています。成功のカギは、明確さ、戦略、タイミングです。
これは単に「正しい人材を採用する」だけの話ではありません。実際に機能するオファーを構築することが重要です。手取り給与、転居サポート、教育費、手当など、すべてを統合し、考慮する必要があります。
この制度は単なる見せかけではなく、報酬戦略上の重要なツールです。給与計算や人事チームを連携させ、すべてのオファーがスムーズに適用され、採用者が問題なくスタートできるようにしましょう。
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