はじめての海外赴任ガイド連載第3回:海外赴任者の社会保険はどうなる?健康保険・年金・労災の取扱いを徹底解説【2026年版】

はじめに:海外赴任の社会保険は「雇用関係」が起点
海外赴任者の社会保険を整理するときの出発点は、「雇用関係が日本の会社とどうなっているか」です。在籍出向で日本本社との雇用契約を維持する場合と、転籍で現地法人と雇用契約を結び直す場合では、社会保険の取扱いは大きく異なります。
また、2026年現在、日本は20カ国以上と「社会保障協定」を発効しており、対象国への派遣であれば現地の社会保険料負担を回避できる仕組みも整っています。本ブログでは、海外赴任者の社会保険を「健康保険」「年金」「労災」「雇用保険」「介護保険」の5つに分け、それぞれの取扱いと実務手続きを整理します。
【全体像】海外赴任時の社会保険の扱い
| 制度 | 在籍出向の場合 | 転籍の場合 |
| 健康保険 | 日本の健康保険を継続適用 | 資格喪失(任意継続または現地加入) |
| 厚生年金 | 日本の厚生年金を継続適用 | 資格喪失(任意加入を検討) |
| 労災保険 | 原則対象外(特別加入制度あり) | 対象外(特別加入も不可) |
| 雇用保険 | 継続適用 | 資格喪失 |
| 介護保険 | 適用除外(届出必要) | 資格喪失 |
多くの日本企業では「在籍出向」の形で海外赴任を行うため、以下の解説は在籍出向を前提に進めます。転籍の場合は注意点も併せて記載します。
【1】健康保険の取扱い
日本の健康保険は海外赴任中も継続
在籍出向の場合、日本本社との雇用関係が継続するため、健康保険・厚生年金保険ともに引き続き加入します。これは、健康保険法・厚生年金保険法が「適用事業所に勤務する限り、国内における住所の有無を問わず加入する」と定めているためです。
海外療養費制度
海外で病気やケガをして治療を受けた場合、現地で支払った医療費の一部を、帰国後に「海外療養費」として請求できます。ただし、注意点が2つあります。
- 【注意1】支給額は「日本国内で同じ治療を受けた場合の保険診療相当額」が上限。現地での実費との差額は自己負担。
- 【注意2】立替払いが必要。請求時には診療内容明細書・領収明細書(現地医師の記入、日本語訳が必要)を提出。
| 海外療養費だけでは医療費はカバーしきれない アメリカや欧州の医療費は日本の数倍〜十数倍に達することも珍しくありません。盲腸の手術で数百万円という事例も報告されています。 海外療養費の支給はあくまで日本の保険診療相当額が上限のため、実費との差額は自己負担。多くの企業では、別途「海外赴任者向け医療保険(駐在員保険)」に加入させています。 |
家族(被扶養者)の取扱い
海外赴任に帯同する家族は、引き続き健康保険の被扶養者として認められます。被扶養者の認定要件(年収130万円未満等)は通常通り適用されます。
【2】厚生年金保険の取扱いと社会保障協定
原則:日本の厚生年金を継続
在籍出向の場合、厚生年金保険も継続して加入します。給与から保険料が天引きされ、将来の年金額にも反映されます。
二重加入の問題と社会保障協定
ただし、現地の国でも社会保障制度(年金など)への加入義務があるため、何もしないと「日本の厚生年金」と「現地の年金制度」の両方に加入することになり、二重に保険料を負担する事態が起こりえます。
また、現地で支払った年金保険料が、将来の年金受給に結びつかないケースも多くあります(多くの国で年金受給には10年以上の加入期間が必要)。
この問題を解決するのが「社会保障協定」です。日本は2026年時点で以下のような国々と協定を発効しています。
| 社会保障協定の発効済主要国(2026年4月時点) ドイツ、イギリス、韓国、アメリカ、ベルギー、フランス、カナダ、オーストラリア、オランダ、チェコ、スペイン、アイルランド、ブラジル、スイス、ハンガリー、インド、ルクセンブルク、フィリピン、スロバキア、中国、フィンランド、スウェーデン、イタリア など ※署名済み未発効の国もあるため、最新情報は厚生労働省・日本年金機構のホームページで確認してください。 |
社会保障協定の2つの柱
①適用調整(保険料二重負担の防止)
相手国への派遣期間が5年を超えない場合、現地の社会保障制度への加入が免除され、日本の制度のみ適用されます。5年を超える場合は、現地の制度のみ適用となります(日本の厚生年金からは原則脱退)。
②保険期間の通算
両国の年金制度への加入期間を通算して、年金受給の最低必要期間を満たせるようにする仕組みです。例えば、日本の厚生年金加入期間が短くても、現地国での加入期間と合算して年金受給権を得られる場合があります。
適用証明書の取得手続き
社会保障協定の適用を受けるには、「適用証明書」の取得が必要です。手続きの流れは次の通りです。
- 事業主が年金事務所に「適用証明書交付申請書」を提出
- 年金事務所が審査の上、認められれば適用証明書を交付
- 赴任者が現地の事業所に適用証明書を提出
- 現地当局から提示を求められた際に証明書を提示
| 人事担当者向けの実務ポイント 適用証明書交付申請書は、協定相手国によって様式が異なります。 申請書には「派遣期間」を記載しますが、5年以内と見込んで申請するのが原則。延長が必要になった場合は、別途延長申請が可能(最長5年延長まで認められるケースが多い)。 適用証明書がなければ、現地で社会保険料が徴収され、二重負担になります。出国前に必ず取得を。 |
協定未締結国への赴任の場合
社会保障協定が未発効・未締結の国への赴任の場合、原則として日本の厚生年金と現地の社会保障制度の両方に加入することになります。これによる保険料の二重負担は、企業として負担するか、駐在員個人が負担するか、規程で明確にしておく必要があります。
【3】労災保険の取扱いと特別加入制度
原則:海外勤務は労災保険の対象外
日本の労災保険は、原則として日本国内の事業所で就労する労働者を対象とします。海外勤務になると、日本での労災保険は適用されません。
海外派遣者の特別加入制度
ただし、海外赴任者を保護するため、「海外派遣者の特別加入制度」が用意されています。事業主が労働基準監督署に特別加入の申請を行い、承認されると、海外勤務中に発生した労災についても日本の労災保険から給付を受けられます。
特別加入の対象となるのは、次のいずれかに該当する者です:
- 日本の事業主から海外の事業に労働者として派遣される者
- 日本の事業主から海外で行われる事業に従事するため派遣される者(中小事業主等)
- 独立行政法人国際協力機構(JICA)などの開発途上地域に対する開発支援事業に従事する者
| 特別加入の手続き忘れに注意 特別加入制度は自動適用ではなく、事業主が労働基準監督署に申請して承認を受ける必要があります。 出国後に特別加入を申請することもできますが、加入承認日以降の事故・疾病しか対象にならないため、出国前の手続きが鉄則です。 保険料は事業主負担。給付内容は国内の労災保険と同等です。 |
【4】雇用保険の取扱い
在籍出向なら継続適用
在籍出向で日本本社からの給与支給が続く場合、雇用保険は継続適用されます。これは、雇用保険が「雇用関係の有無」を基準に適用されるためです。
保険料は日本での給与支給額に基づき計算されるため、現地給与のみが支給される場合は、雇用保険上の賃金算定に注意が必要です。
配偶者の雇用保険:受給期間の延長
配偶者の海外赴任に帯同するために退職した場合、本人が雇用保険の被保険者だったときは、「受給期間の延長」を申請できます。
申請のポイント:
- 申請期限:離職後30日経過後〜4年以内
- 申請場所:管轄のハローワーク
- 必要書類:海外赴任命令書、海外渡航を証明できるものなど
- 延長期間:最長3年(通常の受給期間1年と合算して最大4年)
申請を忘れると、帰国後に雇用保険の基本手当(失業給付)を受給できなくなる可能性があるため、注意が必要です。
【5】介護保険の取扱い
海外居住者は介護保険の適用除外
介護保険は、日本国内に住所がある人を対象とした制度です。海外赴任で国外転出届を提出し、住民票が除票されると、自動的に介護保険の被保険者ではなくなります。
40歳以上の被保険者は届出が必要
40歳以上65歳未満(介護保険の第2号被保険者)の方が海外赴任する場合、健康保険組合または年金事務所に「介護保険適用除外該当届」を提出します。これにより、介護保険料の徴収が免除されます。
届出を忘れると、海外赴任中も介護保険料が天引きされ続けてしまうため、忘れずに提出しましょう。帰国時には「介護保険適用除外非該当届」を提出して再加入します。
【人事担当者向け】社会保険手続きのチェックリスト
海外赴任の社会保険手続きは抜け漏れが発生しやすい領域です。以下のチェックリストを参考に進めてください。
出国前に行うべき手続き
- 社会保障協定の適用証明書交付申請(年金事務所)
- 介護保険適用除外該当届の提出
- 労災保険の特別加入申請(労働基準監督署)
- 海外赴任者向け医療保険・生命保険の手配
- 家族帯同の場合、被扶養者の海外居住要件の確認
赴任中の継続管理
- 健康保険・厚生年金保険料の継続徴収(給与天引き)
- 社会保障協定の延長申請(必要な場合)
- 海外療養費の請求サポート(必要時)
帰国時の手続き
- 介護保険適用除外非該当届の提出
- 住民票の転入手続き(国民健康保険等の再加入)
- 労災保険の特別加入解除
- 海外医療保険の解約
社会保険手続きを最適化する選択肢
ここまで解説してきた手続きは、日本企業の駐在員を派遣する従来型のスキームを前提としています。しかし近年、社員数や進出フェーズによっては、別のスキームを選択する企業も増えています。
海外雇用代行(EOR:Employer of Record)の活用
EORを使う場合、現地でのEORプロバイダーが雇用主となるため、現地の社会保険・税務手続きはすべてEOR側が処理します。日本企業側は、業務指示と人事評価のみを行う形になります。
| EORが社会保険の負担を軽減できるケース ・現地法人がまだ設立されておらず、社会保険の登録もできない初期フェーズ ・社会保障協定未締結国への赴任で、二重負担を避けたいケース ・配偶者の海外赴任に帯同する社員のリモート就労を継続させたいケース ・赴任期間が確定せず、まずは1〜2年でテストしたいケース GoGlobalでは、80カ国以上で現地法令に準拠したEORサービスを提供し、社会保険・税務・労務をワンストップで対応しています。 |
まとめ:社会保険は「協定」と「届出」が鍵
海外赴任者の社会保険は、原則として日本の制度が継続適用されますが、二重加入の防止には社会保障協定の活用が不可欠です。また、労災保険の特別加入、介護保険の適用除外、雇用保険の受給延長など、個別の届出を忘れると後から取り返しがつかないケースも少なくありません。
人事担当者の方は、本記事のチェックリストを社内マニュアルに組み込み、赴任のたびに同じ手続きをミスなく実行できる体制を整えましょう。社会保障協定の対象国は今後も拡大していくため、最新情報のキャッチアップも重要です。
| GoGlobalがサポートできること GoGlobalは、80カ国以上で展開する海外雇用代行(EOR]:Employer of Record)および海外BPOサービス(BCS)(BCS:Business & Corporate Service)のグローバルプロバイダーです。 ・社会保険・税務手続きの負担を最小化したい ・社会保障協定未締結国への進出で、二重負担を回避する設計を相談したい ・現地法人を持たずに合法的にスタッフを雇用したい ・複数国に展開する駐在員の社会保険・税務を一元管理したい こうしたお悩みに、グローバルモビリティの専門チームが日本語でご相談を承ります。お気軽にお問い合わせください。 |
連載:はじめての海外赴任ガイド
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